一時帰還、そして
うっすらと意識が浮上する。
紗雫がゆっくりと目を覚ますと、白いカーテンと白い天井が目に入ってきた。
周りを見渡せば、そこには金髪の女性が一人と、小さな猿が一匹。
「…目が覚めたか」
「…ここは…」
「病院だ。よく無事だったな、紗雫」
視界がハッキリすると、紗雫は女性をよく見た。
一度だけ見たことのある、数少ない元帥――クラウド・ナインだった。
「スパーク達のことは、気に病むな。お前のせいではない」
「…はい」
静かにそう言うクラウドに、紗雫はただ頷いた。
話を聞くと、あの通信の数分後、探索部隊によって紗雫は発見された。
夥しい出血だった紗雫だったが、奇跡的な回復力で一命を取り留めたとのこと。
傷も、寄生型だからなのか治りが早く、医者の予想より早く退院できるようだ。
紗雫発見後、残り三人の遺体も無事回収された。
今は、一足先に教団に運ばれている。
紗雫も、怪我の調子が良くなり次第一度教団へ帰還予定だった。
元帥であるクラウドと共に。
それが、最初のコムイからの指示だったが、それが変更されたらしい。
「…クロス部隊に合流、ですか」
「ああ。私と一度帰還した後、別のエクソシストと一緒にクロス部隊へ合流するそうだ。詳しいことはコムイから聞いてくれ」
クラウドと一時帰還、それから紗雫は部隊を抜け別任務に向かうそうだ。
とりあえずは、傷を癒すことを優先させろとクラウドに言われ、紗雫は再び目を閉じた。
それから一週間経ち、紗雫は医者の予想を遥かに上回る早さで退院を果たした。
今は、クラウドと共に教団へと向かっている。
道中何体かのAKUMAとは遭遇したが、紗雫とクラウドの手によって何度も何度も破壊された。
「…もうすぐだな」
「はい」
教団の近くの町までは、汽車で移動してきた。
あとは、歩いて地下水路の方まで戻れば教団に帰れる。
最後まで気を引き締めていこうと思い、周りに視線を巡らせた。
その次の瞬間。
「エクソシスト! 見ツケタ見ツケタ!!」
「…鉄強の盾[テッキョウ ノ タテ]」
複数のLevel.1だろうAKUMAから飛んできた弾丸。
すかさずイノセンスを発動させると、紙を変化させた盾で防ぐ。
全てを防ぎ切り、すぐに懐から紐から取り出した。
「…紗雫、手助けはいるか?」
「いえ、一人でいけます。――転換 両鎌槍」
即座にイノセンスを発動し、宙に跳ぶと攻撃してきたAKUMAの数を確認する。
数はざっと十数体だろう。
宙を蹴ると、紗雫は近くにいたAKUMA二体に槍を突き刺した。
「エクソシストーーッ!」
紗雫の方ではなく、クラウドに向かってAKUMAの弾丸が向かう。
紗雫はすかさず転換させた銃の弾丸でそれらを撃ち落とした。
そして、そのAKUMAに向かって弾丸を放つ。
爆発と共に、AKUMAが破壊される。
AKUMAが破壊されるのを確認し、紗雫は再び宙へ跳んだ。
「…最後だ。打刀[ウチガタナ]」
槍を刀に転換させる。
残り数体となったAKUMAを次々と切り裂き、最後の一人に深々と突き刺し破壊させた。
「…さてと。師匠、終わりました」
「御苦労。ちょうど水路に迎えが到着したそうだ。行くぞ、紗雫」
「はい」
紗雫が戦っている間に、クラウドに教団から連絡があったらしい。
紗雫はクラウドの言葉に頷くと、二人揃って歩き出した。
水路に着くと、すでに教団の者が船をつけていた。
二人はそれに乗り込み、船が教団に向かって進み出す。
しばらくすると、船は教団につき二人は船を下りて廊下を進んでいった。
廊下を進んで真っ直ぐ室長室へと向かう。
そして、紗雫はクラウドのあとについて室長室へと入った。
「…任務お疲れ様です、元帥。…お帰り、紗雫ちゃん」
「…ただいま、帰りました」
部屋に入ると、迎えてくれたのは満面の笑みを浮かべたコムイだった。
コムイの他には、リーバーの姿しか見えない。
周りを見渡したが、いつも傍にいる彼女の姿はなかった。
「…コムイ、リナリーは?」
「あぁ、リナリーはクロス部隊として任務についてもらってるよ」
「…そうか」
妹第一のコムイからしたら、今回の任務に妹であるリナリーを出すのはさぞ辛かっただろうと、紗雫は思った。
少しだけ紗雫が顔を顰めると、そんな紗雫を見てコムイは苦笑した。
「紗雫ちゃんが考えていることは、なんとなくわかるよ。でも、リナリーなら大丈夫」
寂しげに、でもどこか確信を持ったその言葉に、紗雫はただ頷いた。
自分もしばらくしたらその部隊に合流するのだ。
そうしたら、コムイの代わりに自分が守ってやればいい。
そんなことを思っていると、紗雫の隣に立っていたクラウドがくるりと踵を返した。
「…コムイ、私は部屋に戻ってしばし休む。いいか?」
「はい。また何かあれば伝達します」
そのまま、クラウドは室長室を出ていった。
それを見送ると、紗雫はコムイに視線を戻した。
「…では、紗雫ちゃんなんだが」
「師匠に聞いた。クロス部隊に合流すると」
「あぁ。ミランダと一緒に行動してほしいんだ。彼女は、戦う力はない。厳しい任務になってしまうが、彼女を守りながら動いてほしい」
「戦う力はない…か。わかった。出発はいつになる?」
「明後日の朝だ。それまではゆっくり休んでいてほしい。あと…一度、シンクロ率を計ってほしいんだ」
「シンクロ率を?」
一緒に合流するミランダ・ロットーは、時間回復や時間停止などのイノセンスを所持しているらしい。
それではたしかに戦えないなと紗雫が思案していると、コムイから予想外の言葉が出てきた紗雫は目を丸くした。
「君が第二解放をできるようになってからしばらく計っていなかったからね。一応、さ」
「…わかった」
特別な意味はないのだと、紗雫は了承して頷く。
そして、少しばかり雑談を交わすと紗雫も室長室をあとにした。
シンクロ率
(翌日改めて計ったシンクロ率は)
(95%に上がっていた)
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