ハートの存在




部隊に合流してから、紗雫は教団から任された任務をいくつかこなしてきた。
AKUMA退治、イノセンスの探索。
イノセンスを見つけることは叶わなかったが、AKUMAは何体も倒してきた。

それから、しばらく経ったある日。



「――…イエーガー元帥が…?」
『ああ。神狩り、だそうだ』
「そんな…」
『傷心に浸っている場合じゃない。君達は一刻も早くクラウド元帥の元へ。恐らく千年伯爵やノア達の狙いは、元帥達だ…!』

紗雫は電話で任務完了の報告をしていた。
ちなみに、他のメンバーは駅の近くに待機しており、紗雫だけで近辺にあった宿所から電話をかけていたのだ。
報告を済ませ、コムイの口から告げられたのは、最年長の元帥であったイエーガーの死。
イエーガーが適合していたイノセンス一個と保護していた八個のイノセンス、それら全てはノアによって破壊された。
ノアとAKUMAは、恐らく強い力を持つ元帥がとある力を持つイノセンスを所持していると思い、狙ってくる。
だからこそ、その元帥を守るというのが今度の任務だ。

「…その、ある力っていうのは…」
『…"ハート"と呼ばれる、イノセンスの核になるイノセンスのことだ。伯爵達は、それを見つけようとしている』
「ハート…」

紗雫は呟くように言葉を繰り返した。
コムイの言葉が本当だというならば、急いでクラウドを探さなければならない。
コムイとの電話が終わると、紗雫は急いでスパーク達の元へと戻った。




















駅の方へ走っていくと、駅の近くは見るも無残なことになっていた。
いろんなところが破壊され、血の匂いが充満している。
近くにはいたるところに人が倒れていた。

「こ、れは…」
「あれ、まだいたんだな、エクソシスト」

唖然とする紗雫の後ろから、ふいに聞こえてきた男性の声。
驚いて振り向けば、そこに立っていたのはシルクハットを被った男。
肌の色は、褐色だった。
男性は紗雫を見てにっこりと笑っている。

「ちょーっと、来るのが遅かったね」

男性の言葉に、ハッとして男性の後ろを見る。
そこには、血だらけで倒れる三人の男。

「スパークさん、フレールさん、ガレンさん…!」

夥しいその血の量は、三人が死んでいることを表していた。
驚く紗雫に、男性はただ笑って紗雫を見ている。
だが、しばらくすると男性が目を丸くして口を開いた。

「…あれ、ちょっ、もしかして電車の彼女…?」
「…?」
「うわ、前はコート着てなかったから気づかなかったな。エクソシストだったのか」

きょとんとする男性に、紗雫は拍子抜けたように呆然とする。
だが、目の前の男が間違いなく敵なのだろうと、静かに懐に手を忍ばせた。

「誰かは知らないが…後ろの三人をやったのは、お前か?」
「俺じゃねーよ。これをやったのはAKUMA達。エクソシストっつったって、大量のAKUMA相手じゃただの人間同然だな」

嘲笑う男性に、紗雫は男性を睨みつけた。
そして、懐から紐を取り出す。
それを見た男性は、その紐を見て吹き出すかのように笑った。

「ハハッ、なにそれ。遊びでも始めるわけ?」
「…さぁ、どうだろうな。――イノセンス、発動」

紗雫の目が、青く染まる。

「転換 両鎌槍」

紐が一瞬で両鎌槍に転換する。
そして、瞬時に紗雫は駈け出した。

「…なにそれ手品?」
「…さぁな。…第二解放 空炎乱舞」

槍を振るい、周囲の空気を巻き込む。
空気が、槍の先端に炎を纏わせた。
後ろに飛び退く男性に、紗雫は槍の切っ先を真っ直ぐ男性に向ける。
貫かんばかりの勢いで向けた槍は、避けられ宙を切った。
後ろに飛び退いた男性は宙に止まり、紗雫は目を見開いた。

「…驚いたか? 俺は万物を選択する能力を持ってんだ」

笑う男性に、紗雫は宙へと跳ぶ。
宙に立つ男性の目の前まで跳ぶと、紗雫は空気を"踏んだ"。
それを見た男性は、先程の紗雫同様目を見開く。

「…万物の選択か…。それがあんたの力なのか、ノア」
「…へぇ、似たような力を持ってんのか。っていうか、ノアのことを知ってるんだな」
「私の力は、物を想像の力によって転換、変化させるもの。ノアのことは、少しだけ知ってる」
「なるほどな。…自己紹介がまだだったな、そういや。俺はティキ・ミック。お嬢さんは?」
「…紗雫だ」
「そっか、紗雫な。じゃあさ、お嬢さんのついてる元帥がどこにいるか、知ってるか?」

微笑むかのように笑う男性――ティキに、紗雫は槍を構え直すと飛び出す。
切っ先を振るい、静かに口を開いた。

「…知らないな」
「そうか」

切っ先は、再び宙を切る。
もっと高いところへ退いたティキは、笑って手を宙に翳した。

「ティーズ」

ティキの掌から、黒い蝶が舞う。
それは、真っ直ぐに紗雫の方へと飛んできた。
すかさず、紗雫はホルダーから転換した銃を取り出し蝶を撃ち落とした。

「ヒュー、やるね」
「次はお前だ」
「…いんや、お前の相手はこいつらだ」

銃を構える紗雫の周りに、突如として現れたのは数十体のAKUMA。
どのAKUMAも、明らかにLevel.2以上のAKUMAだ。
紗雫が顔を顰めると、ティキはそんな紗雫を見て笑った。

「んじゃ、あとはよろしくAKUMA達。あいつらみたいに簡単に死んでくれるなよ、紗雫?」
「…っ、待て…!」

ティキの後ろに、扉が現れる。
その扉にティキが入ると、紗雫が追いかけるよりも早く、その扉は消え去った。





ノアとの接触
(ティキが消えると同時に)
(AKUMAは一斉に紗雫へと襲い掛かり始めた)



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