白髪の少年
紗雫が教団に入団してから三カ月。
任務で外に出ていた紗雫は、一緒に来ていた探索部隊二名と共に地下水路から教団内に入ってきた。
「…あっ、紗雫、おかえりなさい!」
「リナリー…。あぁ、ただいま」
教団に入って廊下を歩いていると、室長室に入る手前でリナリーに出会った。
どうやらリナリーもまた室長室に用事があったらしく、二人揃って部屋に入る。
中に入れば、コムイは机に突っ伏し眠っていた。
「…おう、お帰り紗雫」
「リーバーさん。ただいま」
「悪いな、室長は今さっきまで新たなエクソシストの対応に追われてたんだ」
「…新しいエクソシスト?」
本棚の影から出てきたのは、目に隈が出来たリーバーだった。
それよりも紗雫が気になったのは、リーバーの言葉。
「新しいエクソシストって…」
そう、気になったのは"新しいエクソシスト"についてだった。
先程まで任務で出ていたのだから、紗雫が知らなくて当然といえば当然なのだが。
紗雫のその言葉に、リーバーもリナリーもにっこりと笑っていた。
「アレン君っていうの。さっきヘブラスカのところに行ってて、今は部屋にいるはずよ」
リナリーが言うには、新しいエクソシストであるアレン・ウォーカーは紗雫の隣らしい。
とりあえずは任務の報告をしなければと、紗雫は机に突っ伏すコムイの耳元へと近寄った。
「…コムイ、リナリー結婚するって」
「リナリーッ! お兄ちゃんに黙って結婚なんて許さないからねーっ!」
「おはよう、コムイ。任務から戻ったから、報告させてもらおうと思ってな。起こしてすまない」
紗雫が囁くお約束な言葉に、飛び起きたコムイ。
暴れ出すんじゃないかというくらいの勢いで起きたコムイに、紗雫は苦笑した。
「…あぁ、そっか。お帰り、紗雫ちゃん。それで、どうだった?」
「イノセンスではなかった。ただAKUMAがわんさかいただけだったな」
「Levelは?」
「Level.1が二十くらい、Level.2が二体だ」
「そっか。お疲れ様だったね、あとは部屋でゆっくり休んで」
淡々と報告する紗雫に、コムイはそう言って微笑んだ。
イノセンスを見つけられなかったのは残念だったが、AKUMAを倒すことができたのは幸いと言えよう。
リーバーとリナリーにも労いの言葉をかけられ、紗雫は室長室をあとにした。
紗雫が部屋に戻ると、ちょうど白髪の少年が隣の部屋から出てくるところだった。
リナリーが言っていた、隣の部屋にきた新しいエクソシストであるアレン・ウォーカーだろう。
そう思いながら、紗雫が部屋の扉を開けようとした。
「あ、あの…!」
「…なんだ?」
部屋に入ろうと扉のノブに手をかけると、少年から声をかけられ足を止めた。
どうやら紗雫を呼びとめようとしたらしく、紗雫はそちらに視線を向ける。
まじまじと顔を見ると、左目付近に刺青のようなものが見えた。
「僕、今日から入団したアレン・ウォーカーです。貴方は?」
「…紗雫だ」
紗雫に駆け寄るアレンに、紗雫は静かにそう返した。
答えてくれた紗雫が嬉しかったのか、アレンはにっこりと笑っている。
どうしたのだろうかと紗雫が人知れず眉を寄せると、アレンはそんな紗雫に微笑んだ。
「いや、その…リナリーから、貴方のことは聞いていたんですが。もしかして、神田と似た感じの人なのかなと思いまして」
「…神田か」
アレンの言葉に、紗雫は黒の長髪の彼を思い出した。
紗雫は数回しか話したことがないが、神田という人間はいつでも冷静で仏頂面をしている人間だと認識していた。
刀を携えている彼は、必要ないと認識したら仲間さえも切り捨てる。
だが、それが彼なりの優しさなのだと、紗雫は思っていた。
「紗雫さんは寡黙な人だって、リナリーが言っていたんです。だからてっきり…」
「…たしかに、口数は少ないな」
「すいません、勝手な推測で…気を悪くしましたよね?」
「いや、大丈夫だ」
申し訳なさげに苦笑するアレンに、紗雫はほんの少し微笑む。
そう、別に自分が寡黙なことはわかっていたし、それを言われたことも初めてではなかった。
それを気にしたことは一度だってなかったし、アレンに言われたことだって全く気を悪くすることなんてない。
気にするなと言わんばかりに、紗雫は自分より背の低いアレンの頭をそっと撫でた。
それに驚いたアレンは、目を丸くして紗雫を見上げた。
「紗雫、さん…?」
「私のことは気にするな、ウォーカー。それに、自分がこういうやつだっていうのはよく分かっている」
ただ微笑み頭を撫でる紗雫に、アレンは困ったように、でも嬉しそうに笑った。
「…ウォーカーじゃなくて、アレンって呼んでください。これからよろしくお願いしますね、紗雫さん」
「あぁ。よろしく、アレン」
共に笑顔で握手を交わす。
これが、紗雫とアレン・ウォーカーの出会いだった。
アレン・ウォーカー
(交わした手は)
(とても温かかった)
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