黒の教団
ラビと出会い数日後、紗雫はとある場所へとやってきた。
高くそびえる崖、その上に見えるは黒い建物。
「…なんか、悪の拠点って感じがするな」
「紗雫もそう思うさ?」
そう思う、ということはラビもかつてそう思ったことがあったのかと、紗雫は思わず笑みが溢れた。
出会ってからの数日間、ラビからはいろいろなことを教えてもらった。
今、世界の命運を分ける戦争が起きていること。
イノセンスを壊さんと動く千年伯爵と、その家族ノアの一族のこと。
千年伯爵のつくるAKUMAのこと。
イノセンスを持つ者である、エクソシストのこと。
大雑把な説明ではあったが、紗雫が現状を知るには十分な情報であった。
ちなみに、ラビがエクソシストであることも教えてもらっている。
そんなこんなで、ラビに連れられてきたのはエクソシストの行動拠点である黒の教団だった。
「…さーてと、んじゃまあとりあえず、門番の検査でも受けてもらうさ」
「検査…?」
ラビの言葉に紗雫は首を傾げることとなった。
審査とはいったい何だろうかと。
というよりも、このそびえ立つ崖をどうやって登るのだというのか、紗雫には予想ができかなかった。
不思議そうにする紗雫に、ラビはにやりと笑うとズボンに取り付けてあったなにかを手に持った。
何を始めるのだろうかと魅入っていれば、ラビは笑っていた。
「よっしゃ、じゃあいくさー! イノセンス発動!」
ラビの掛け声と共に、小さい何かが一瞬にして大きくなった。
現れたのは、ラビの身長くらいの槌。
「じゃ、紗雫はここに掴まってなー」
「ラビ。一体何を…―――」
「いくぜ! 大槌小槌 伸!」
驚いて紗雫が指示された通りに柄を持てば、次の瞬間ラビの掛け声と共に柄が伸び始めたではないか。
あまりの勢いに紗雫は顔を引き攣らせ、それに対しラビは楽しそうに笑っていた。
そんな恐怖にも似た体験もつかの間、いつの間にか紗雫とラビは黒の教団の前へと到着していた。
「やっぱこいつが一番さー」
扉を見て、ラビは満足げに頷いている。
着地したままに地面に手をついて、紗雫は盛大に溜め息を吐き出した。
「どうしたんさ、紗雫。もしかして酔ったとか?」
「…心臓に悪過ぎ…」
満足げなラビに、紗雫は疲れ切った表情でそう答える。
すると、ジジッ…という機械音が門から聞こえてきた。
『…ラビ、そんなところで何してるんだい?』
「おっ、コムイ、ちょうどいいとこさ! 紗雫の審査してもらおうと思って、連れてきたんさー」
『例のイノセンスを持っていた男の人のことかな?』
「そうそー」
機械越しのその声に、紗雫はただ静かに会話を聞いていた。
どうやら、相手の男性はコムイという人間らしいということはわかった。
だが、コムイの口から告げられた言葉に、紗雫は眉を寄せる。
『…じゃあ、とりあえず門番の前に立ってくれるかな、紗雫君?』
「…はい」
結局、門番の身体審査は何事もなく合格し、紗雫は無事黒の教団へと足を踏み入れたのだった。
はじめまして
(自分のことすらわからない紗雫)
(教団の人達は笑顔で迎え入れてくれた)
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