新たな力、勝利へ
それから、戦いは激しさを増していった。
万物を選択できる快楽のメモリーを持つティキは、空気を踏み台にして空中に立つ。
アレンも、道化ノ帯を使い、天井や柱に帯を突き刺したり巻きつけたりすることにより、空中戦に対応していた。
外へ飛び出すアレンとティキに、リナリーは心配そうな目でアレンの戦いを見守る。
それと共に、ロードの誘いに乗ってから動かなくなったラビを心配そうに見つめた。
呼びかけても、ラビからの反応はない。
チャオジーも呼びかけるが、ラビは目を開いたまま、全く動かなかった。
苦戦、というわけではないが、少しばかりアレンが不利な状況だった。
互いに戦い慣れてはいるが、能力はティキの方が僅かに上。
それでも、アレンは自分の持つ技を使いティキに対抗していた。
ティーズから放たれる攻撃を、イノセンスの力により鎧を作り防ぐ。
そんな中、ティキはノアと千年伯爵が持つ、イノセンス破壊の力を発動した。
アレンはそれを、真向に受け止める。
だが、あまりに強すぎる力に、アレンはリナリーとラビが入る箱に突っ込んでいった。
あと一撃だと、ティキがアレンに迫る。
そんなティキに、アレンは壊されかけた左手を自己修復してみせた。
一瞬の、強い殺気にも似た何かに、ティキが恐怖を覚える。
「――ティキ・ミック、貴方は人間を舐め過ぎてる」
アレンの言葉に、ティキが高笑いをした。
そのティキの雰囲気は、突き刺さるほどに痛い。
ティキのその雰囲気にいち早く気づいたロードは、紗雫やリナリー達を離れた場所へと移動させた。
「拒絶…拒絶、拒絶、拒絶、拒絶――!」
アレンが、ティキの出した真空空間に閉じ込められる。
その空間に、ティキが入っていく。
その光景を見て、リナリーは悲痛に表情を歪めた。
何もできない自分が悔しい、そんな思いで、リナリーはイノセンスも発動していないその足で、閉じ込めている箱の壁を蹴り続けた。
その一方で、アレンの方にも変化が起きていた。
アレンは真空の中で、僅かに意識を保っていた。
思い出すのは、自分の思いと覚悟。
イノセンスを発動させようとするところをティキに邪魔されるが、集中力がそれを上回る。
そして。
真空空間が、壊れた。
出てきたのは、左手を剣へと変えたアレン。
ロード達の方へと飛んできたティキは、冷や汗を流しそんなアレンを見ていた。
ロードもまた、アレンを見て唖然とする。
まるで、千年伯爵のようだと。
ピリピリとした雰囲気は、仲間であるはずのリナリーにすら恐いくらいの力を感じさせた。
その剣で、真っ直ぐに斬りかかるアレン。
躊躇いのないその剣を、ティキは弾き返す。
再び斬りかかるアレンに、ティキ盾を出してそれを防いだ。
しかし、それは壊され――たしかにティキは剣に斬られた。
それなのに、ティキの体は斬られていなかった。
そう、斬られたのは。
「――僕が斬ったのは肉体じゃない。破壊したのは貴方の…」
「俺の、中の、ノアが…!」
破壊されたのは、ティキの中に宿されたノアだった。
退魔ノ剣に宿されたのは、人間を切る能力ではなくノアの一族に宿る、ノアの力のみを破壊する力。
もう一度斬られそうなところを、ロードが止めようとする。
だが、ティキはそれを制止し、そして。
「この戦争から、退席しろ! ティキ・ミック!」
退魔ノ剣は、ティキを確かに貫いた。
静かにティキの聖痕が消える。
それを見て、ロードが黙っているはずもなかった。
喜ぶチャオジーを、先の尖った蝋燭で突き刺す。
次の瞬間には、アレンとリナリー達を無数の蝋燭が囲んでいた。
アレンの次の相手は、ロードではなくラビだった。
我を忘れたラビに、アレンが手を出せるはずもなく、アレンは防戦一方だった。
ラビに必死に呼びかけるが、それがラビに届くことはない。
退魔ノ剣でどうにかできないかとアレンはもがくが、何かが憑いたわけではないラビには効かない。
ラビから火判をはじめとする攻撃が繰り出され、アレンはもろに攻撃を受ける。
それでも、アレンはただ攻撃を防ぐだめでラビを攻撃をすることもできない。
原因であるロードに剣を投げ突き刺すが、それも効かなかった。
万事休すかと思われた、その時。
再びラビが火判を出した。
しかし、その炎はアレンを焼くことはなかった。
それどころか、リナリー達を囲む蝋燭を次々と解かしていく。
――そう、ラビは夢の中の世界で正気を取り戻していたのだ。
ラビは、夢の中でアレンに化けていたロードにナイフを突き立てた。
外の世界で火に飲まれたロードは、内側からの攻撃と外からの攻撃で黒焦げになる。
リナリーとチャオジーは無事ロードの作った箱から出ることが出来、ラビとアレンもまた無事だった。
焦げたロードは、アレンの名前を呟くと灰になって消える。
その傍で、紗雫が入っていた箱もまた開けられ、紗雫はその場に倒れた。
そして、倒れた紗雫の瞳が、ゆっくりと開かれていった。
「…っ…み、んな…」
「…! 紗雫…!?」
呟かれたその言葉に、反応したのはリナリーだった。
おぼつかない足取りながらも、チャオジーに支えられ紗雫の傍に駆け寄ってくる。
霞む視界でリナリーの姿を捉えた紗雫は、薄ら笑んだ。
「…リナリー…無事で…よかった…」
「…っ、紗雫、だって…!」
「泣かないで…可愛い顔が、台無しだ…」
紗雫の元に座り込むリナリーの頬に、紗雫の手が触れた。
優しい手つきで涙を拭い、紗雫はゆっくりと体を起こす。
そして、リナリーをそっと抱きしめたのだった。
戦いの終焉…?
(抱きしめ合う紗雫とリナリーに)
(アレンとラビは嬉しそうに微笑んだ)
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