いつの間にか、溺れてた




隣の部屋に紗雫を運ぶと、俺は元いた部屋へと戻った。
ロード曰く、ちょうどスキンと誰かが戦い始めたようだ。
甘党と戦ってんのはどうやら一人だけらしく、他のエクソシストの奴らは先へ進んだらしい。
おいおい何してんだよとかそんなことを思うが、甘党らしいっちゃ甘党らしいかもな。
ロードはロードで、少年が来るのを楽しみにしているらしかった。

…まぁ、俺らも馬鹿だよな。
あいつらは放っておけば、勝手に死ぬ。
こんなに勝手なことやってんのに、千年公は怒ってないらしい、ロード曰く。
俺らのことを心配はしていても、俺らの危ない性(さが)がある以上、止めはしないんだと。

勝手に死ぬっていえば、ふと少年のことを思い出した。
少年――アレン・ウォーカーは、たしかにあの夜殺したと、そう思っていんだが。
あいつに宿るイノセンスが、少年を生かした。
ありえねぇと思うが、千年公曰くイノセンスは俺らを殺すためならなんだってする、そういうやつなんだと。


――次こそは、少年のイノセンスを壊して少年自身も殺す。


湧き上がる衝動を抑えることもせず、俺は口の端を吊り上げた。

でも、今度こそ少年を殺したら、紗雫はどうなるんだろうな。
泣くのか、それとも――壊れるか。
俺としては、どっちでも楽しい。
いつの間にかこんなにも彼女に溺れてんだなって、今更ながらに実感した。

「…ノアとエクソシストだっつーのにな」
「ティッキー?」
「いや、なんでもねぇよ」

外を眺めていたはずのロードが、いつの間にか椅子に座る俺の前に立っていた。
考え事をしている間にどうやら来たらしいロードに、全く気付かなかったなんて。
思わず苦笑する俺に、ロードは微笑んだ。

「ティッキーはさぁ、紗雫がノアとして僕達と一緒にいてくれたらいいなって思う?」

意外なその質問に、俺は目を丸くした。
そりゃあ、紗雫と一緒にいたいっつーのはホントだ。

「そりゃまぁ、一緒にいてぇとは思うけど」

俺の言葉は本心だった。
エクソシストだとしても、こんなにも心が、身体が、紗雫を求めてる。

「仲間をみんな殺しちゃったら、紗雫はこっちにきてくれるかなぁ」
「…さぁな」

紗雫はすごい仲間想いだ。
少年を殺したと告げたあの夜、彼女は初めて本気の怒りを露わにして俺に斬りかかってきた。
ま、頭に血が上ってたからそんな攻撃簡単に避けられたけど。
…そういや、同じ部隊のやつを殺したときはあんまり取り乱してなかったことをふと思い出した。

「…もしかして…」
「…? どうしたのさ、ティッキー?」

紗雫は、少年のことが好きなのか?
同じ部隊だったやつのとき、たしかに紗雫は怒ってはいたが、そんなに取り乱すことはなかった。
俺が殺したからじゃないのか、それとも何か別の理由でもあるのか。
あんまり頭が良くない俺だ、そこらへんはイマイチわからなかった。

「…なんでもねぇよ」





















しばらくして、ロードが何かを朗読しだした。
多分ノアに関するなにかについてだろうけど。
それをなんとなく聞き流していた数分後、ロードの朗読が終わった。

「…おやすみぃ、スキン」
「甘党の負け?」
「ううん、アレン達を先に行かせて一人残ったやつは、僕の扉を通った感じしなかったなぁ」
「…相打ち」

呟いたロードの表情は、顔の前に乗せている本のせいでわからなかった。
甘党の負け、そんなことを思っていると、なぜか勝手に涙が出てきた。

「泣いてんのぉ、ティッキー」
「…触らんでいい。勝手に出てきたの」

触ろうとしてきたロードの手を、自分の手で止める。
勝手に出てくる涙が不思議で仕方なかった。
別に、スキンが死んですごい悲しいとか、そんなんじゃない。
じゃあ、これは。

「なにこれ…。俺らん中のノアが泣いてんのか…?」
「そうかもしれない。ノアが、泣いてるのかもねぇ…」

見れば、ロードも泣いてた。
俺自身に感情が伴ってなくても、そんなことって起きるんだな。
そんなことを思っていれば、部屋の扉が唐突に吹っ飛んだ。
そっちに目を向ければ、見慣れたやつが二人。

「ロードぉ、ティッシュある?」
「…お前らの涙って黒いんだ?」
「馬鹿ティキ!」
「メイクが落ちたんだよ!」

ノアの双子、ジャスデロとデビットだった。
メイクが落ちたらしいその二人は、流した涙が黒くなってる。
思わず俺がそう呟けば、双子は喰って掛かってきた。
そんな双子に、隣にいたロードがタオルを投げてやった。

「…ほら」
「雑巾で十分じゃねぇ?」
「うるせぇ!」

メイクの落ちた双子は、なんだか見てて面白かった。
受け取ったタオルで、顔をゴシゴシ拭いてやがる。
よくよく見たら、ジャスデロの頭には見覚えのない帽子と、なぜか鶏が乗っていた。

「…スキンのお別れ会、やろっか」

泣きながらもそう呟くロード。
その言葉に、俺は黙って頷いた。







その後、俺らはスキンのお別れ会をした。
ワインの入ったグラスを掲げる俺と双子。
ワインの代わりに、牛乳の入ったグラスを掲げるロード。

「…さよなら、スキン」
「さよなら…」
「……」
「…また泣けてきちゃった」
「なんでだろうな…」

また泣き出すジャスデロに、俺は静かにワインを煽った。
涙はまだ、止まりそうになさそうだ。





ノアの涙
(怒りのメモリー)
(それは、ノアで一番強い思念を持つメモリー)



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