イノセンス発動
光が収まり、驚いて閉じていた目をゆっくりと開ける。
開けた視界には、驚きでこっちを見ているラビがいた。
「紗雫…」
懐に入れていたはずのイノセンスが、消えた。
でも、ラビの持つ槌みたいになにか物になったというわけではなさそうだ。
心なしか、見えている世界が鮮明になっている気がする。
「なんダったンダ、今ノ光は…」
「紗雫、何か変わったことは…?」
驚く聞AKUMAの声。
そして、静かに尋ねてくるラビ。
私はただ首を横に振った。
イノセンスがどこに消えてしまったのか、それが不思議で仕方ない。
しかし、それを知る術がない。
気がつけば、ラビが私の元に走ってきていた。
明かりが少ないせいであまりよく見えないが、ラビの服には土や少量の血が付いている。
自分が何もできないせいで傷ついてしまったのだと、眉間に皺が寄った。
その一方で、ラビが目を見開いて私の両肩を掴んできた。
「紗雫、お前目が…!」
私の目は元々茶色だ。
それが、いったいどうしたというのか。
「あ、青いさ…」
「目の色が、か…?」
自分の手で目元にそっと触れる。
触っただけでは、何が変わったのかわからない。
だが、ラビが嘘をついてるとは思えなかった。
いったい自分に何が起きたのだろうかと思案していると、私達のすぐ近くを何かが通っていった。
「私を無視シなイデほシイものネ」
「…ちっ、とりあえずあいつをどうにかするのが先さ…」
「そうだな…」
見えないAKUMAに舌打ちをして、近くに落ちていた木の棒を手に持つ。
これがAKUMAを倒すことのできるイノセンスならラビの足を引っ張らないで済むが、これでは一発攻撃を凌げるか、といった程度のものだろう。
せめて、刀とか鋭利なものとかがあればいいのだが。
そんなことを思っていると、ふいに手に持った木の棒が淡く光り出した。
「…!」
驚いたのは、どうやら私だけではなかった。
ラビもまた、私の持つ物を見て驚いていた。
数秒して光が少しずつ消えていき、私の手に握られていたのは――
「か、たな…?」
光が収まり、見えたのは日本刀だった。
木の棒を持った時にイメージしたものと、全く同じもの。
それはなぜか私の手にしっくりきているような気がして、迷わず私はそれを構えた。
「紗雫、お前それ…」
「…たぶん、イノセンスと適合できたんだと思う。それよりラビ、いくぞ…!」
私の声と同時に、またAKUMAが近くを通りすぎる。
私は勘だけで空を斬った。
「ウギャアアッ」
空を斬ったと思ったそれは、たしかにAKUMAを斬っていた。
だが、手ごたえからしてあまり傷は深くない。
やはり、姿が見えないのはこちらにとって不利だ。
「よく勘で当たるさ…!」
「そんなこと言ってる場合じゃない…! それより、あのAKUMAをなんとかして見えるようにしないと…っ」
「殺ス殺ス殺スー!!」
AKUMAから放たれる殺気が強くなった気がした。
もたもたしている場合ではないらしい。
どうにかしなければならない、そう考えたとき、このAKUMAは月のない夜にだけ姿を現わすことを思い出す。
だとしたら、月明かりを邪魔している雲をどうにかできればいいのではないか。
だが、私にはその術がない。
「…ラビ、お前、雲を消せたりしないか?」
「こんなときになに呑気なこと言ってるんさ…!」
「あのAKUMA、もしかして雲の下だけ姿を隠せるんじゃないか?」
背中合わせに立ち、こそりとラビにそう持ちかけた。
ラビは怒るようにそう返してきたが、私だって考え無しに言っているわけじゃない。
私の提案に、しばしの間が空くとラビが勢いよく私の方を見てきた。
「いちかばちか、やるしかないさ…!」
にやりと笑うその顔は、何かを思いついたようだ。
ラビは槌の柄を地面に突き立てた。
「いくぜ、第二解放…! 天地盤回 木判!!」
突き立てた地面に、円と木の字が描かれる。
ラビがその円に槌の面を叩きつけると、光の筋が空へと飛んでいく。
その次の瞬間には、空を覆っていた雲が晴れていった。
晴れていくと、公園の中心にAKUMAらしき影が現れた。
「ソンな馬鹿ナ…!」
「よっしゃ、行け、紗雫!」
「言われなくても…!」
雲が晴れ、驚くAKUMAに向かって真っ直ぐ走り出す。
AKUMAが反応するよりも先に、私は刀を深くAKUMAへ突き刺した。
「ガアアアアアアアアッ!!」
断末魔のような叫びを上げ、AKUMAは静かに消えていく。
私達の長い夜が、終わりを告げた。
夜は明ける
(戦いが終わったことを確信し)
(私達は静かに笑い合った)
[TOP]