ヘルヘイムで愛を語り合う(ディアボロ/jojo)
勢い良くドアを開き目的の部屋の中へズカズカと入っていくとシャワー終わりなのか、上裸で濡れた姿のままベッドで膝を折り新聞を見ている男が一人いた。予知できていたのだろう驚いた様子はなくこちらに鋭い視線を向け「…どうした」とだけ言う男に近寄ってベッドへと腰をかける。そのまま後ろへと倒れこみ、ディアボロの膝に頭を預け見上げれば酷く掠れた声が「何の用だ、と俺は聞いているんだが」と言った。

ここ最近は何を恐れているのか、そういう時期なのかは知らないが何個か借りているホテルを転々と移動しながらディアボロは引きこもっている。唯一と言っても過言ではない、ボスの正体を知る私だけが転々としているホテルの中から彼を探し出した。

「…アンタさ、娘なんかいたの?」
ボスには隠し子がいる。そんな噂を耳にしたせいで慌てて滞在しているホテルに向かった。ボスであるディアボロの正体を知っているものなんて私以外いないだろう。(もちろん、ドッピオは除く)
とにかくそれくらい存在がトップシークレットなこの男は、世の中にたくさん恨みを買っている。ゆえにいつも彼を探す者は存在するので、小さな痕跡すら消して生きてきた。そんな彼への道しるべ、娘が母親から何か聞いていてそこから自分へと辿りつかれる可能性をディアボロはひどく嫌がるだろう。私はそれを予想し、こっそりと怯えていると踏んでこの場所へと来たのだ。

彼は私の言葉に驚きも否定もせずに眉間にシワを寄せて「お前にまで情報がいくとはな」と言い、新聞を折りたたんでベッドサイドの棚へと置いた。
「幹部にだけ伝えたんだろうけど、だいぶ広まってるよ、どうすんの、絶対狙われるよ中からも外からも」
「どうもこうもない、娘の存在を消せばいいだけだ」
「消す、ねぇ。その前に連れ去られたりしたら?」
「もう手は打ってある」
「やだぁ…さすがボス」
「…どういう意味だ」
「もちろん尊敬の意よ」
興味のない態度は既に手を打っていたからか。ヒールを脱ぎ捨てて寝転がっていた体を起こして大きなベッドで立ち膝をして綺麗な顔に唇を寄せてキスをする。不機嫌そうな顔がそのまま私を見上げた。
「…何か?」
「寒い」
「そりゃあ髪も乾かさずにそんな格好でいればねぇ…」
枕元にぐちゃっと置かれたバスタオルへ手を伸ばし、ディアボロの頭へとかける。まだ随分と濡れている髪の毛をポンポンと優しく叩きながら水滴を奪っていけば33歳の大の男が子どものように大人しく目をつぶるものだからチラチラと顔を見てしまう。ああ、本当に良い顔してるなぁ。

「ジロジロ見るな」
「はーい」
「…娘がいたことに対して何かないのか?」
てっきり癇癪でも起こすかと俺は思っていたがな。そう言った男についつい目を丸めてしまう、私が嫉妬やヤキモチを妬くとでも思っていたのだろうか。
「アナタのこと、とても愛しているわ。でも過去に興味はないし、私は今のアナタが存在して輝き頂点にいるのを一番近くで見ているだけでいいの」
「…本当におかしい女だな、お前は」
「褒められてると思ってたくさんキスしてあげる」
ふんっと鼻で笑うディアボロの頬や額にキスをすれば大人しく受け入れる男に愛しさを感じた。この男は孤独の中で、1人絶頂に居続ける。私はそれに寄り添い見ているだけでいいし、不必要と思ったらいつ消されてもいいという覚悟の中4年もこの関係を続けているのだ。いつまで経っても消されないということは、自惚れてもいいだろう。もちろん最悪な事態にならないよう、私は彼のことしか考えずにこの4年を生きてきたのだから。

「私もいつかは消すでしょう?」
「俺の栄華がなまえのせいで危うくなったらな」
「一生で一度のお願いだけどその時は必ずアナタの手で私を消して」
「…考えとこう」
プロポーズも子どもも花束だっていらない。最期に見る顔がアナタであればそれでいい。私の頭を撫でて唇を重ねてそのままベッドに押し倒されればこのまま殺されても悔いなど残らないのだろうな、と本気でそう思った。きっと言葉通りこの男、ディアボロは私のせいで自分の存在が危うくなった時、迷わず私を殺すだろう。それでいい、それがいいのだ。
「最期だ、お前を消すのは」
口元を緩めて見下ろす男にひどく惚れ込んだのは私。彼が栄枯盛衰しない姿を見続けたい。ただそれだけ。孤独の男が頂点に居続け、寂しいと思った時にだけ私で埋めてくれればいい。そして約束通り、愛があるからこそ手を下してくれるはず。

「好きよ、ディアボロ、私はアナタのために在るの。地獄だって喜んで付いて行くから、だから私のことを最期まで愛してね」
「当然だ、俺も誓おう、お前を最期まで愛してやるぞ」
「…なんて最高の言葉なのかしら」
アナタに惚れた時から私は地獄にいるし、ディアボロという存在を知っている私を4年も消さないアナタもすでに地獄に片足突っ込んでる。