口実はバレるもの(ミスタ/jojo)
この小説は書き手の友人(美容師/ミスタの夢女)と飲んでいた時に「美容師設定でミスタ夢よろしく」と言われ書いたものです。もう全てに関して雰囲気話なので他の人は全てを許して見てください。そんな友人へ、いつも私のヘアメンテとケアありがとうね、ほんと感謝。あとジョジョ沼へようこそ。

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※ミスタ視点


会うのに口実を作るってのは案外用意したところで相手にバレるモンらしい。
それは18年生きてきて俺が気付かされたことで、例えば俺のことを好意的に思ってる女の子が『映画のチケットが余ってるから一緒にいかない?』なんて声をかけてくれば『ああ、なるほど。この子は俺のことが好きなんだろうな』って馬鹿でもわかる。きっとナランチャだってわかるだろうし、こういうのに抜けてるブチャラティだって気付くだろう。口実って言うのはあくまでも自然にしなければ、いとも簡単にバレるものってことだなァ。その点、俺はツイてる、彼女に会うには口実は作らなくてもいいのだから。


「いらっしゃいま…ミスタかぁ、チャオ」
「チャオ、今日もよろしくな」
「はいはい、短いとすぐ伸びちゃうもんね」
カランっと音を鳴らしてドアを開けば見慣れた顔の女が床を掃除している真っ最中だった。店内に客はおらず、既に帰った後だったのだろう。最近お目当ての彼女は、手入れの行き届いた髪の毛を邪魔にならないようまとめてはいるが、仕事柄なのか髪型も服装もとても洒落てて可愛い。荷物預かるよ、と近づいたときに香る自然なシャンプーの香りだとか、ほんのり付けているのだろう不快にならない程度の香水に顔が緩んだ。

つい半年前、ワケあって美容室を変えた。
そこでなまえに出会った俺は、1ヶ月ちょっとおきくらいに行ってた美容室を2週に1回くらの頻度に変え、そりゃもうなるべく頻繁に会えるようにした。神に感謝するほど彼女を好きになったんだからしょうがない。それに恋愛は単純接触効果って言うしよォ。徐々に距離も近くなって来た頃には四六時中機嫌が良いからか「なんだ女か?」とアバッキオは聞いてくるし、悪ノリに乗ってきたフーゴやナランチャにまで「美容師を狙ってる?どうせ下心あるんだろミスタ」だとか「なぁなぁその子可愛い?」だとか本当無意味な質問攻めにあった。

まぁ毛頭彼女の話しをするつもりはない。
彼女の存在を知られてたまるか。
このお店はオアシスで、彼女はヴィーナスなんだつーの。

「ぼーっとして、どうしたのミスタ?」
「え?ああ、いや、なんでもねーよ」
慣れた手つきで俺をシャンプー台に案内すれば、顔に水がかからないようにとフェイスガーゼがかけられる。フーゴが言ってた「下心」とすれば唯一この店でのシャンプーの立ち居地が横だってことくらいだな。

「…はい、終わり〜」
「はえーなぁ、相変わらず」
「ミスタの髪は短いからねぇ…」
あっという間にシャンプーもカットも終わって2週間に1回会える日が終了する。でも今日の狙いはこれからだ。

「あのよ…飯、行けたりしねェ?」
「…ランチ?」
「おー」
なまえはチラッと壁にかかる時計を見てからうーんと唸り手の平を重ねて頭を下げられた。
「ごめん、30分後には予約のお客さん来ちゃうからランチは厳しい」
「だ、よなぁ…」
がっくしとあからさまに肩を落とせば、眉尻を下げて照れくさそうになまえが笑う。

「…昼は無理だけど、夜ならご飯いけるよ」
「マジか…」
「うん、マジ」
ランチでもう少し距離を詰めてから夜飯誘おうとか思ってた俺を飛び越えて、まさかあっちから飛び込んでくるなんて。びっくりしすぎて固まった俺を心配するなまえの手を思わず掴んで「じゃあ夜な!迎えに来るから店で待ってろよ!」と言えば頬を赤くさせて微笑んだ。

その日は丸一日機嫌がよくてジョルノから「なんかむかつきますね」と言われた。いくらでも言えばいい、今日の俺は何を言われても動じないくらいは気分がいい。しかもそんな日ってのは本当にツイていて「4」という不吉な数字は視界にも耳にも入らない。


18時、彼女の店が終わるくらいにブチャラティから言われた通り広場の花屋で一本だけ花を買い店へ足を運ぶ。慣れた店前の階段を昇ってドアを開ければすっかり準備の出来たなまえが嬉しそうに笑って椅子から立ち上がった。
「お疲れ」
「ありがとう、ご飯どこで食べようか?」
「店は予約しといたからよ、近場とはいえ歩かせちまうんだけどいいか?」
「へーきへーき」
薄手のコートを着た彼女もめちゃくちゃ可愛いし、最高だ、眼福だ。生きてて良かった。今日まで頑張って半年近く通い詰めた俺を本当に褒め称えたい。

「あー…そうだった、これなんだけど…」
「え!くれるの?ミスタがお花買ってくれるなんて思ってもみなかった」
そういえばと来る前に買った一輪の花を渡せば目をキラキラさせて喜ぶなまえ。両手で持ってくるくると指先で回しては綻ぶ顔が、可愛くてアドバイスをくれたブチャラティに感謝した。


予約していたリストランテに入って席に座れば大きな目が、悩ましげにメニューを見つめる。少しだけ下を向く長い睫毛をずっと見てられるな、と我ながらに中々重症だと心の中で笑った。
「そういえばミスタって嫌いなものある?」
「食べ物なら特にねぇなァ…、ああ、でもアレだ…その4切れのものとかは勘弁してくれ」
そう言えば「出た4嫌い」と言われたがなまえは笑うこともなく「そういうのって本当にあるもんね」と言った。

「なまえもなんかあるのか?」

2人分、出された白ワインを口に運んで一口飲む。彼女は割と酒を飲めると言っていたけどどんなものかは知らない。別に今日は酔わそうなんても思っていないし、楽しく食事が出来ればそれでいい。

「あるよ」

いつもより少しだけ濃く引かれたルージュの唇が、弧を描いて含みを持たせて笑う。雰囲気が違う、と目を丸めてから「例えば?」と聞けば指先でグラスに付いたルージュを器用に拭きとった。

「例えば、ね…うーん、ふふ、そうだなぁ…。口実って言うのは案外相手には本来の目的がバレている、とか?」
思わぬ発言に耳を疑って、マジか、と言い掛けた所で店員がメニューを聞きに来た。仕事柄、染髪で染まった爪先でメニューを指差したなまえには最初から何もかも見透かされていたということで、これから俺は何を言われるんだと羞恥心で上手く顔が見れない。