地獄で叱って(ギアッチョ/jojo)
※死ネタ/ギアッチョ追悼

目を見開いて思わず口元を押さえ込み上げてくる嗚咽と吐き気を我慢した。
リゾットから言われた頼まれごとは、私にはどうも荷が重い。

ホルマジオの焼死体を警察に連れて行かれる前に回収し、イルーゾォの朽ちた肉体の代わりに残った洋服を持ち帰った。列車の近くで血まみれになったプロシュートと、必死になってバラバラになったペッシの一部をかき集め(四肢の回収すらできなかった)、自身のオンボロの車は死臭と血に濡れて運転席以外は使いものにならなくなった。その時点で私の胃の中はぐちゃぐちゃだ。もう水も喉に通らないくらいひたすらに心の中がどん底に沈み、締め付けられるような圧迫を感じていたのだ。

「メローネからの連絡が途切れた」
リゾットの電話越しの単調な声色は少しひねり出されたようにも聞こえたけど、それよりも言われた言葉に耳を疑う。
「…わかった、回収に向かう」
「辛い役目を頼んだな」
「…いいよ」
メローネの死がほぼ確定して、表情を曇らせた私に横で車を運転していたギアッチョが「あ?どうしたァ」と言うので、携帯を握り締めた。

「…私はそこの駅で降りるわ」
回収に行く、そう伝えればしばらく無言で車を走らせて駅前で急停止させる。何も言ってこない男を不審に思い様子を見ようと運転席を見れば彼は拳を握り締めて車の窓を思いっきり拳で叩いた。
「メローネもやられたっていうのかよ!リゾットは!!」
「ギアッチョとの電話も途中で繋がらなくなったし、その可能性が強いかもしれない」
「あんなクソガキどもにか!?ああ!?」
クソ!クソ!クソ!と叩いた窓は次第にピシッと音を立てて凍り始める。
悔しい気持ちも苛立つ気持ちも全て私と一緒だ。そっと手を伸ばしてなるべく優しくギアッチョの頭を撫でてから、降りるために助手席のドアに手を伸ばした。

「…なまえよォ…」
「…うん?」
ドアを開けようと力を入れたところで捻り出されたギアチョのうめき声に止められる。振り返り首を傾げれば、ハンドルに腕と頭を載せた男がとても冷たい目で見つめてきた。
「…俺が死ぬことなんてゼッテーねぇけど」
「うん」
「でももしも、もしも俺も死んだらよ、泣くな、そんで組織から逃げて、生きろ」
「…ギアッチョまで私に酷い役回りをさせるの?」
「リゾットも、俺が殺られた時点できっとそう言う」
ギアッチョの言葉に首を横にも縦にも振れずに呆然とした。そんな私を見てまるで遠くにいる人間を呼ぶように手招きされる。顔を近づけて目を瞑れば、頬に触れるだけのキスをしてぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。
「頼んだぜ」
目を細めて私の頭から手を離したギアッチョに嫌な予感がしたのに、私は何も言えずに恐怖を感じたまま車を降りた。


冷たくてとても寒い。
そんなひんやりとした風が頬を撫でて、質量のある沼に落ちたかのように心臓は静かにどくどくと鼓動を続けた。指先で触れた男の頬は風よりも冷たく、皮膚は硬直し始めていたのか少しだけ硬くなっている。
「…もしもし、リゾット?…ギアッチョも殺られた」
「……そうか…わかった…なまえ、」
「なに?」
「いや、なんでもない」
電話越しに聞こえる静かな声にどうしようもなく息が詰まった。鼻の奥を熱くさせるこの感情は悲しさなのか悔しさなのか。一度深呼吸をして、もう一度携帯電話を強く耳に押し当てる。
「…死体はみんなと同じように回収したわ、私は…このまま奴らをすぐに追う」
「…頼んだ」
「うん、じゃあ、また…連絡する」
「ああ」
電話を切って、空気穴から喉に刺さったのだろう街灯の先端に触れ少しだけ力を入れた。チクッと小さな痛みが指先に走って、指先からぽたぽたと落ちる血を見て下唇を噛み締める。

「泣くな、なんて…無理に決まってるじゃない…」
指先の血液に混じって地面にぽたぽたと落ちる透明な液体を袖でぬぐって、ギアッチョの喉の穴に布を巻いた。遠い空がどんどん明るくなるのを横目に、一度だけ彼の額にキスをする。

「私はこれから約束を破るけど許してくれる?」
きっと許さないだろうね。でもどうしても貴方の誇りを、私は終わらせたくないの。その先に待つものが死だとしても、どうか地獄で私を叱って。