神の祝福と愛と僕に似合う君(渚カヲル/eva)

※2012-2014年くらいに書いたやつ

ガタン、と音がこえて目を開く。何時間寝ていただろうか頭がぼんやりとしていてふわふわとしていた。いや、でもここは確かに見慣れた部屋でああまたこの部屋か、と目を開いたときに思った。音がした方へ首だけ向ければ扉の側に色素の薄い軟弱そうな、私の嫌いな奴が立って私を見ていた。私の好きな赤の花をメインに詰め合わせた小さな花束。白い渚カヲルには赤い花が映えるからお似合いだね、と私は馬鹿にしたつもりだったのに奴は何を勘違いしたのか笑って、ありがとうと言っていたなそういえば。ずきん。ああ、頭が痛い。

「何故」
「なんだい?」
「何故そこから動かないの」
「動かないんじゃないよ、動けないんだ」
「おかしなこと言うのね、足が付いているのに?」
「うん、けどそっちにはもう行けないんだ」
この部屋が見慣れているけど違和感があるのはもう知っているし、頭がガンガンと響くんだから何かを伝えたいんだろう、私は何を忘れてるの?渚カヲルが持つ赤い花束が遠い。

「その花束、よく見たいんだけど。君が来てくれないなら私が行くよ」
足の感覚はない。そういえば私は一度も渚カヲルに近づこうとしたことはなかったな、胡散臭い奴だったし。そういえばこれが夢のような、ふわふわした風にかんじる。それでもハッキリと見える私の好きな赤い花束、間近で見たいな。
「それは駄目だよ」
「なぜ?」
「君はこちらにきちゃいけない」
「何故?」

真っ白のベッドから降り渚カヲルに近づこうとすると「駄目だ!!!」と大きい声で怒鳴られた。華奢な体のクセにそんな声でるのね。きっといつもの私なら鼻で笑っただろう。けど今の私はそんなことができるほど頭が動いてなかった。

「あぁもう駄目だった」
「ねえ、そういうことなの?」
「もう君は良いみたい」
「どういうことなのよ」

「だから、君はもういらないんだよ」

「いらない?じゃあ誰がエヴァに乗るの?」
「大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないわ説明しなさいよなんでみんな言葉が足りないの本当呆れるガキじゃないんだから…さっきから意味わかんないことばかり!言葉にしてコミュニケーションとりなさ…」
「もう、いいんだよ」
渚カヲルは真っ直ぐ私の近くに来て肩を押した。ベッドに横たわる形になった私の膝付近に赤い花束を置き、私をベッドに押し付けた渚カヲルは目を細めながら私の目を見つめた。ぎしりとスプリンクラーが鳴って、静かな部屋に響く。

「君はよく頑張ったよ。」

渚カヲルは私を撫でる。ベッドに押し付けた力強い左手と違い優しい右手で私のおでこから頬にかけて、スルリと撫でる。白い手がくらりとした。

「や、だ」
「君の、使命は、終わったんだ」
「イヤ」
「あとはシンジくんたちがなんとかしてくれる」
「ダメ」
「なんで言うことを聞いてくれないんだい」
「渚カヲルは嘘つきだから」

私の使命なんか始まってもなかったし終わっていない。まだ使徒を倒し終えてない。耳をすませば聞こえるじゃない、アスカの泣き声も碇くんの嘆きも、綾波だって………そこまで思って、ふと気づいた。
「はは…そういう、こと」
「君はよく頑張ったんだ」
「渚カヲルがいる理由も分かったわ」
「……」

死んだのか。

私は、戦いの最中に。無様に死んだのか。約束を守れぬまま。世界から、逃げ出したのか。

「…っ悔しいとも違う、悲しいとも違う、この気持ちが分からない」
「泣いていいよ」
「泣かないよ、悲しくないもの」
「嬉しくても泣くものじゃないのかい?」
「そんなに優しい心は持ち合わせてないわ」
「そう」

渚カヲルがゆっくりと私抱き締めた。きっと生きていた私なら突き飛ばしていたと思うけど、私もゆっくり渚カヲルの背に腕を伸ばした。渚カヲルは白いから冷たいんだろうと思っていたけど暖かかった。視界の隅に彩った赤い花束には白い薔薇と青い薔薇もまぎれていた。