ソロモンのお伽噺(ルカリオ/pkmn)
※2012-2014年くらいに書いたやつ



思っていたより深くに来てしまっていた。幼いときから聞かされていた物語に胸を躍らせあなぬけヒモを一つだけ買って夢物語のように奥へ奥へと進んで行ってしまったようだった。ねえ、ルカリオ。小さな声で呼べば前を歩いていた私より少し小さな背丈に似合う先が尖った耳がピクリと小さく揺れ振り返った。がう?首を傾げてどうしたのかと聞くような顔に少し休憩しようか、と言った。
「本当に魔法の石はあるのかな」
持ってきた栄養補助食品を水と一緒に食べながら歩いてきた道を見つめる。先は真っ暗で何も見えなくてぞくりと背筋に鳥肌が立った。



魔法の石。私の町で昔から伝わるお伽噺だ。昔この町に訪れた旅人は疲れを癒すためこの洞窟で何日か過ごした、すると奥から声が聞こえ言ってみると黄銅色の鈍い光を放った石があったと。旅人はその光に感動して自分のポケモンに見せようとした。するとなんということだろうか意思の疎通は出来ていたがお互いの言葉では通じ合えないはずのポケモンと喋ることができたという。その話を聞いてみんなはお伽噺と笑った。けど私には魅力的なお話だった。
「絶対に見つけたいの」
がう。
隣に座るルカリオの頭を撫でれば気持ちよさそうに目を細めた。



それから丸一日たっただろうか。足はふらふらで思考も鈍ってきていると自覚するくらいには心身ともに疲労しきっていた。まだ、見つからないのか。鈍い光なんて見えやしない。本当にあるのだろうか。私だけ信じてたし本当はなかったのかもしれない。あぁ。ついに限界がきた足がもつれて前へと倒れる。がう。そんな私を支えたのはずっと一緒に歩いてきたルカリオだ。
「ごめんねありがとう」
もうボロボロだ。なんのためにここまで来たのか鼻の奥がツンとして目頭が熱くなった。ルカリオは不思議そうに、それでも私のことを察したのか情けない声で鳴いた。すんすん。ルカリオの鼻が動き、耳がピクリと動いた。
「ルカリオ?」
がうがう。何かを伝えようと私に鳴く。ごめんわかんないよ。わかっても私もう動けないよ。そう伝えようと顔を上げるとルカリオと目が合った。がう。ああ、見つけたの。そうね貴方は波導使いだもの。立ち上がれないと察したのか私を横抱きにし奥へと進むルカリオ。ねえもしこの先に本当にお伽噺のような石があったら貴方にいいたいことがあるの。


ルカリオ。貴方は本当に昔から私の兄のようね。リオルだった時からそうよいつも私に気を使って私のために生きてくれる。トレーナーにとってこれ以上の喜びなんかないはずなの。瞼さえ塞がりそうな疲労だった。それでも確かに光が先にあって心臓がどくどくと忙しなく動き始めたのだ。
「あれが…」
本当にあった。黄銅色の鈍く光る石。急いでルカリオの腕から離れて石に触れる。ねえ、これだよね?そう言って振り返ると目を丸くしたルカリオが口をパクパクと動かした。

「ルカリオ…?」

がう。いつも通りの鳴き声が聞こえると思った。パクパクと動いた口から「あ」と聞こえて今度は私が目を丸くした。
「ルカリオ、喋れるの?」
「夢みたいだ」

信じられない。
本当に言葉が通じ合うなんてさっきまで疲労で閉じかけていた目でじっくりとルカリオを見つめる。ルカリオも意志の強い目で私を見つめなおした。

「ルカリオ、私貴方にどうしてもいいたいことがあるの」
この言葉を言いたかったの、ねえお願いよ聞いて。

「私なんかとずっと一緒にいてくれてありがとう。大好きよ。こんな簡単な言葉しか思いつかないの。でも大好きなのよ」
ぎゅうっと抱き付いてもふもふの毛に顔を埋めた。言いたいことはたくさんあるのに私の語学力じゃ上手く言えない。ごめんねこんなトレーナーで。
「わ、たしは。貴女に会えてよかった。なまえ、貴女が私を愛してくれるように私も貴女が大好きだ。言葉に表せられない、人の言葉は難しい」

出てくる言葉にうん、うんと頷きながら抱き合った。小さなころから一緒だったね私たち、きっとこれからも一緒よ、私がうんとおばあちゃんになっても一緒にいてねルカリオ。もちろん。

なんて不思議な話だろうか、本当にポケモンと話せるなんて。みんなが知ればもっと幸せになれるはずなのに。そう思うとぼんやりと光っていた光が消えて行ってしまった。
「もう、終わりなのね」

「言葉は通じないかもしれない。それでも私はずっと貴女が好きだ。大好きだ。この先貴女が私を煩わしく思うことがあるかもしれない。それでも私は貴女の味方だ。私は貴女のポケモンだから」
パクパクと動いた口がゆっくりと閉じてそれから肩を落としてルカリオは目をゆっくりと瞑ってから残念そうに呼吸をした。ルカリオ。もう聞こえないのかもしれない。それでも言わせてほしい。

「貴方以上のポケモンはいないわ」

理解したのかしていないのか、がう、とゆっくり瞼をおろし頷いた。



ロモンのお伽噺

気づいたら石は最初からそこになかったかのように消えていた。あなぬけヒモを使って私たちは町に帰りこの話をしたが誰も信じることはなかった。それでもきっと誰かが信じて黄土色の石探し、その光を見て自分のポケモンと愛を深めるのだろう。それでいい、信じるものこそ幸せになる権利があるのだから。