鳥の鳴き声が聞こえて目が醒める。
いつもなら大好きなアールグレイの匂いがするのだけれど、今日はそれがなかった。大好きな男が目を閉じて静かに息をする視界が穏やかで、気分のいい朝だ。ふわふわとする白昼夢の感覚で彼に寄り添えば、少しだけ「う、…」と寝言のような声を上げたのに全く起きやしない。

存外、この男も朝に弱いんだろう。今までじっくり考えたことがなかったけど。仕事がないと起きないタイプだったし。ひっついた身体に指と手のひらを這わして固い筋肉にドキドキとときめく心は、まるで純情にでもなったかのようで少しだけ嘲笑した。

「…ブローノ…私はやっぱり汚い女なのかも」
たくさんの男と寝たからじゃない。心が汚れているのだ。あなたにときめく心はあれど、どろどろとあなたに対する執着心や依存は重くなっていくだろうし汚く醜い。それでも許してくれるだろうか。
「……ナマエ」
小さく名前を呼ばれ彼を見れば、考えていた不安を否定するようにちゅっと優しくて可愛いキスをくれた。そのまま強く抱きしめられ、耳元でくすくすと笑う吐息がくすぐったい。
「もう何も悩まなくていいんだ、俺がなんとかする」
私を撫でる手のひらが温かくて「ブローノ」名前を呼んで目を瞑り私からキスをすれば、心を満たす香りに酔って堕ちた。



「で、また寝坊ですか?二人そろって?」
「すみません…」
足を組んで私を睨む幼さを残した金髪の男は、私と並んで立つ男に対しても呆れ気味にため息を吐いた。
「ナマエとブチャラティがくっついたのは嬉しいことですけど、それとこれとは全く話が違います。
2人とも人の上に立つ人間なんですからしっかりしてもらわないと困る」
「ジョルノの言う通りだな、悪かったとは思っているよ」
「その表情で言われても説得力に欠けるんです、あなたももっと反省して下さい」
「悪いな」
「ブチャラティ」
怒られているというのに隣に立っている男の表情は穏やかで微笑み混じりだ。あっけからんと返答するたびにジョルノの目が死んでいく。
席から立ち上がり私の前に立ったジョルノがじっと見下ろしてきた。
「…なんでしょうか…」
「その馬鹿みたいな敬語は辞めて下さい、さっきは嬉しいと言いましたけど割と僕も傷ついているんです」
「ジョルノ…」
少しだけ悲しそうな顔をした男に手を伸ばして頭を撫でようとしたところで手首を掴まれた。
「なので僕を傷つけた代償として仕事をたくさん用意します、覚悟してくださいね」
「ひっ…」
にっこりと満面の笑顔で言い放った言葉に顔が引きつる。横で苦笑いをしていたブチャラティの方を向いて「ブチャラティ、あんたもですよ」と言った。
「俺もか…」
「ブチャラティには嫌がらせも含めておきます」
「…俺の彼女は随分モテるみたいだ」
「魔性の女ですからね、ちゃんと首輪つけといてくださいよ」
「首輪か…それもありかもな」
物騒な会話が飛び交って何故か私だけが居たたまれない雰囲気になる。なんでだ、なんで私だけがこんないたたまれない空気に。
チラッと壁にかかる時計を見てブチャラティが言った。
「ああ、でも折角昼時だしジョルノ、仕事の前にランチにでも行かないか?」
くすくすと笑いながら出された提案に瞬きをしてからため息をつくジョルノ。
「…しょうがない…。そうですね、今日は木曜日ですしナマエの言っていたニョッキを食べに行きましょう」
車のキーを持ってドアへ向かったジョルノに見えないように、こっそりとブチャラティが私の手を握った。小さく握り返せばふわふわと優しい気持ちになれて、この穏やかな日々がずっと続くことを願った。

END:2019/02/27