嗅ぎ慣れたタバコの匂いがして起きたら、すでに出る準備が整ってるプロシュートが目に入ってぎゅっと瞼を瞑った。
「…なんじ…」
「7時だな」
「はや…」
おじいさんなの、小声で言ったら昨夜のようにベッドサイドで座っていたから聞こえたのだろう舌打ちされて煙を吹きかけられる。
「めにしみる…」
「昨日なんて終わってすぐ23時には寝たんだぞ」
「だってプロシュート2回目ないじゃん…」
「一度殺すか?」
「嘘ですごめんなさい丁寧で気持ちの良い極上なセックスができるのはプロシュートだけです」
私の悪態に物騒な言葉を返してきたので大人しく謝れば、機嫌を直したのかくしゃくしゃと頭を撫でられる。
「今日仕事なの?」
「ローマで1週間くらいな」
「う、わ…ジョルノ鬼畜…」
「暫く俺は潜るから寂しくなったからって泣くんじゃねェぞ」
ふっと笑って額にキスをされる。一瞬で離れた温もりにきゅんと心か子宮かが音を鳴らした。「チェックアウトは10時だからそれまでには出ろよ」とだけ言って男は出てってしまい、部屋にはポツンと私だけが残される。しーんとした部屋が静かで虚しくて満たされてた心がぽっかり穴を空いた。

「…こういうの嫌いだって知ってるくせに置いてくんだから本当に優しくない」
目の前にいなかったから反応はなかった。寂しい。


それからのんびりとテレビを見たり可愛い大きなバスタブに入って楽しんでいたが、やっぱり1人はつまんなくなってチェックアウト前の9時半には部屋を出た。血生臭いと言われた洋服と、汚れた下着も相まって気持ちは底辺を這っていたので、とりあえず買い物して着替えようと服屋の前で立ち止まる。
「あれ、アバッキオ」

服屋の先、道端で見慣れた後ろ姿がいて思わず声をかけたら男は振り返り、少しだけ驚いたような顔をした。
「…ナマエがこんな時間に街にいるなんて雨でも降るか?」
「ひどいわね!たまたまよ」
「プロシュートのところだろ」
「知ってるの?」
なに、私がいるところの連絡網でもできてるの?きょとんとしてからそう言えば、目線を合わさずに身長の高いアバッキオが私を見下ろす。
「買い物か?」
「うん、洋服買おうと思って、アバッキオは今日休み?」
「さっき仕事終わったからとりあえずはな」
「鬼畜〜…」
さっきもプロシュートに言ったな。

にしても今やってるのってそんなにデカい案件だっけ?首を傾げれば返答はない。言っちゃいけない内容なのか、納得して並んで歩けば街の人たちがたまに私たちに挨拶をしてくれた。
「アバッキオさん、ナマエちゃん、最近食べれてんのかい?今度またみんなと食べにおいで」
「ふふ、ありがとうおばちゃん、後日必ず伺いますね」
横で少しお辞儀をしたアバッキオの代わりに返事をすればおばさんがニコッと笑った。
「…お前はジョルノの側近になってもココの人間みたいだな」
「やーね、ずっとココの人間よ。何年ネアポリスにいたと思ってんの」
「そうだな」
何当たり前のこと言ってんの、とくすくすと笑えばアバッキオも悪いことを言った、と言って少し顔を緩ませた。

「…あれがいいんじゃねえか」
「おお…」
アバッキオが指を差した先にある服を見て感動。私が今求めているような動きやすそうなパンツスタイルで思わずショーウィンドウを覗き込む。
「見るか?」
「眠くないの?」
「まだな」
「ふーん」
にんまりと私の口元が緩んだ。手を引いて店に入り、店前でマネキンが着ていたパンツと同じ物の前で自分のサイズを確認し、手に持った。その間にパンツに見合うトップスを選んでいたのか3着持ってきては私に渡す。
「流石アバッキオ」
「うるせーよさっさと買え」
「はーい」
渡された3着のトップスから1着を選びレジへと持っていって支払いをして店を出た。

「見繕ってくれてありがと〜」
「甘やかすって言っちまったからな」
義理堅い男だ、なんて思いながら下着屋の前を通ったので10分ほどアバッキオを待たせて上下のセットで購入した。
「あ、アバッキオの家って近くだよね?」
「…そうだが、入れねーぞ」
「着替えくらいさえてくれたっていいじゃん!」
「お前を入れると後々めんどくさいだろ」
睨まれてうっと口もごる。
「ね、おねがい」
袖を引っ張って上目遣いで頼み込んでだめだったら諦めよう。アバッキオをじっと見つめればため息をついてから「10分だけだ」と言われた。

アバッキオの部屋に入り、見渡せば相変わらずモノトーンで揃えたインテリアがおしゃれで思わず「お〜」だなんて声が出た。リビングに私を押し込んだアバッキオがそのままシャワーを浴びるからその間に着替えとけ、と言い残し消える。
「…つめたい…」
この場にいない相手に頬を膨らまして買ってきた服を紙袋から出して眺めれば、顔が綻んだ。やっぱり買い物をすると嬉しいものだなぁ、なんて。

「…なんつー姿でいるんだ」
「このトップス背中にジッパーあるんだもん…」
「だからって上は着ろよ」
シャワーから出てきたアバッキオが呆れ顔で見るのも頷ける。買ってきたトップスが背中にジッパーがついているタイプで自分では髪の毛が引っかかりそうで怖い。上半身をキャミソールのまま半泣きで抱きつけば、呆れ顔のアバッキオが上げてやるから上を着ろと言ってきた。
「ありがとう〜」
「ガキかお前は」
「よく言われる」
ふふっと笑って袖を通し、背中を向ければ髪の毛を優しく持ち上げながらジッパーが上がる音が聞こえた。優しい感触に目を瞑ってたら、首に何かが触れてぱちぱちと瞬きをする。振り返って見上げれば、顔を少し赤らめてバツの悪そうに目線を逸らすアバッキオがいて、懲りずにムラっとした。自分の性欲に私も呆れそう。

「…ねえ、甘やかしてくれるのって洋服選ぶだけ?」
あーあ、私って下品な奴。舌なめずりして、アバッキオに寄りかかれば頭上からため息が聞こえて、そのまま横抱きにされた。
「ねみーんだ、わがまま言うなよ」
「ふふ、はーい」