第2話:東方仗助!アンジェロに会う


「仗助ーおはよー」
「おー夏、今承太郎さんと電話してるからちょっと待ってろ」
「ほーい」
洗面所で髪の毛を整えながら電話をする仗助を見てからキッチンの椅子へ座る。少しすると朋子さんが戻ってきて、コーヒーメーカーへと水を入れた。

「夏ちゃん、フライパン見てくれる?」
「あ、はい!」
朋子さんとお喋りしながらキッチンへ立っていると、満面の笑みでエプロンを持ってきてくれた。着てみな、と言われ制服の上からエプロンを着る。
「うん、似合うじゃん。買ってきた甲斐があったわ」
「え!買ってきたって…私に?」
「もちろんいつも手伝ってもらってるし、娘みたいなもんだしね。コーヒー飲む?」
「えへへ、飲みますー」
朝からとても嬉しい気分だ。ふふ、と自然に溢れる笑みが隠せない。

入れてもらったコーヒーをじっと見て昨日の液体状のスタンドを思い出す。もし、あのスタンドが仗助だけでなく、朋子さんを攻撃するようなことがあれば、私は何ができるだろう。こんなにも私に優しくしてくれるこの人を、悲しませたり苦しませたりしてはいけない。奥歯をギリィッと噛んだ。

「仗助ーこの写真どうしたの?さっき会った牛乳屋さんだわ…知り合いなの?」
「ッ」
置きっ放しの写真を見ながら朋子さんが言った言葉に息が止まる。咄嗟に口に含もうとしたコーヒーを睨んだ。まさか、そんなわけ。色まで変えれる、とか?仗助が電話をしながら化粧水の瓶を逆さまにして中身を出して、朋子さんに近づく。これから起きることに気づいてバクバクと揺れる心臓を落ち着かせるために口を閉じた。

「仗助、アンタもコーヒー飲む?」
「うん、そうだな…ミルクと砂糖も入れてくんない?」
「ミルクと砂糖ね…」
背後に立った仗助が朋子さんをスタンドで貫通し、体内へ入ろうとした敵スタンドを取り出した。構えていたけどやはりその光景にショックを感じた。
「…ッ…?仗助、ミルクと砂糖だっけ?」
「ああ」
すぐに電話を取りに戻ったのできっと承太郎さんへ報告しに行ったのだろう。私もすぐに朋子さんと会話を続ける、もちろん申し訳ないがコーヒーにはあまり口をつけられなかった。朋子さんが身だしなみの確認で洗面所へ向かった時に、仗助が耳の近くで「承太郎さんが来るからそれまで待ってようぜ」と言った。こんな状況でもどきっとしたのは反省したい。

朝食を食べ終わり承太郎さんが来るまでの暇つぶしでゲームをすることにして、仗助と勝負する。仗助の選択ミスでデッドボールで、私のサヨナラ勝ち。
「やったー!!」
「…いつやっても夏に勝てねェ…」
がっくしうなだれる仗助がスタンドの入った瓶を振ると、ただの水だと思っていた液体がスタンドの形になった。
「よしよし…」
「とりあえず捕獲できてよかったよね、でもしばらく水は飲めない気がする」
「俺も思うぜ…」
「仗助ー!夏ちゃんー!遅刻しないで行きなさいよー!」
「うぃーす」
「はーい!」
遠くから聞こえた朋子さんの声に返事をしてから、ゲームでの再戦を求められたので続けることにした。

「動くな!…仗助、貴様学校はどうした?夏ちゃんまで家に連れ込んで全く」
「じいちゃん!拳銃家に持ち帰っていいのかよ!てか別に連れ込んだわけじゃねーよ!」
「やかましい、答えろ」
「行くよ!今人が来ンの待ってんだよ!」
「びっくりしたァ…おじいちゃんお邪魔してます」
仗助のおじいちゃんが、拳銃を仗助にくっつけて脅かすもんだからびっくりして言葉が出なかった。今の状況なら尚更ドキッとする。

「でーヘッヘッ!2人ともバァカめ!これはモデルガンだもんねー!ビビリよって、仗助、今週のビビらせ賞はまずはワシの一勝じゃな!」
「わかったわかった…俺の負け…」
「んー?どうした今回はやけに素直じゃないか」
「別に、もうオフクロ出かけたよ。早く寝ろって、疲れてんだろ」
「私たちももう行きますから」
仗助がゲームを消して片付け、ニュースへチャンネを変える。テレビ画面にはニュースキャスターが険しい顔をして、ここ最近の変死事件について話す。ピリッとした空気になって、仗助のおじいちゃんも眉間にシワを寄せた。

「何者か、この街にはヤバい奴が潜んどる気がしてしょうがない」

真剣な顔つきに、長年この街を守ってきたおじいちゃんが異変に気付いていることを察する。


2度クラクションの音がして、私行ってくるよ、と仗助に言うと俺が行くと窓から顔を出す。承太郎さんの顔を見てホッとして振り返ると、仗助のおじいちゃんが倒れていた。
「えっ…」
「じ、じいちゃん…?」
「そんなッ」
おじいちゃんへ駆け寄ろうとして仗助が私を止めた。ずるりと這い出てきた見覚えのあるスタンドがゲラゲラと笑いながら何かを言っているが、耳から何も入ってこない。

仗助がスタンドを出してパンチでラッシュをするが、敵のスタンドはビチャリと音がして飛び散った後に窓際に集まって形を戻す。
「危ねェ…なんてパワーだ…まだいい気になってるな…必ず殺ってやる…いいな必ずだ…」
そう言って敵スタンドは静かに消えた。


慌てて仗助がスタンドを使いおじいちゃんの傷を治していく。気づいてしまった事実を信じたくないと思い、口を抑えて嗚咽が出るのを我慢する。傷が治りあとはおじいちゃんが目を覚ませばいい。それなのにおじいちゃんは全く反応をしめさない。

「ッ、そんな…筈は…目を覚ますはずだ…俺のスタンドは傷を治せる…子どもの時から何度もやってる…夏の骨折を治してピアノのコンクールに間に合わせたことだってある…コラじいちゃん!!ふざけると怒るよ!!夜勤明けだからってマジに寝ちまったのか!?ビビらせ勝負ならもういいって!じいちゃん!じいちゃんッ!!」
傷を治し終えた仗助がおじいちゃんの上半身を抱きあげて必死に声をかける。それを家に入ってきた承太郎さんが静かに止めた。

「仗助…」

「傷は完璧にッ…」

承太郎さんが肩に手を置いてジッと仗助を見つめる。言葉がなくてもそれが答えで、私は我慢しきれずに静かに涙を流した。嗚咽が漏れないように、仗助に聞かせたくなくて、必死に口を抑える。

「ッ…」
「…人間は何かを破壊して生きていると言ってもいい生物だ。その中でお前の能力はこの世のどんなことよりも優しい。だが…生命が終わったものは、もう戻らない。どんなスタンドだろうと、戻せない…」
「仗助…」

優しい能力。
そう、仗助のスタンドはこの世で一番優しい能力なんだ。人を守れる暖かい力。だからこそ、今回のようなことは苦しい。

「…この人は35年間、警察官としてこの街を守ってきた。街の危機を感じ取ってたし、アンジェロがやったらしい殺しのニュースを聞いたとか時、この人は街を守ってる男の目になった」
ギリっと強く手を握りしめる仗助の横に座りその手の甲に自分の手を重ねる。私にも優しかったおじいちゃん。悔しくて仕方ないけど、私以上に仗助はもっと苦しいのだ。

「アンジェロは何人も殺している、死体が見つかってない街の人間も何人かいるはずだ。奴の殺人に理由はない、趣味だからだ。これからも殺すだろう。まずお前と、お前のオフクロさん、そして夏を殺してからだろうがな」
承太郎さんの言葉に、心臓が音を立てた。そうか、ここまで関わったとなると私も狙われるのか。仗助の手の甲を包んでいた私の右手が、逆に仗助によって握られていた。静かに仗助が立ち上がり、外を睨みつける。

「…俺が…俺がこの街とオフクロを、そして夏を守りますよ。この人の代わりに…。どんなことが起きようと…」

その言葉に目を閉じる。いつかの約束と同じだ。いつも仗助は私を守ってくれると言うけど、私は彼に何をしてあげられるだろうか。


おじさんのお葬式が終わり、仗助が朋子さんを親戚の元へ行かせると言ったのでそれが良いと同意する。承太郎さんが来るから、とそれまで仗助の部屋にいることになった。
「…」
「仗助…」
どう声をかければ良いのかわからない。お母さんが死んだ時、仗助は黙って私を抱きしめてくれたけどそう言うのが恥ずかしくない年齢だったから出来たようなものだ。そうは思いながらも、意気消沈してると言うよりもは怒りの矛先とモヤモヤが消化できていない状態の仗助はさっきから部屋の中を落ち着きなく歩いては物に当たっているし、どうしたものかと肩を落とす。

「夏」
「…ん、なあに」
少しして落ち着いたようにベッドへ腰掛けた仗助が、私を手招きする。近づくとジッと私を見つめる。その目がとても悲しそうで、やるせなくて、何も言われずともゆっくりと仗助を抱きしめた。こうしてあげないといけないと、母性本能か何かがそう思ったのだ。思ったよりも落ち着いた自分の心音を聞かせるように、仗助を優しく撫でる。仗助も目を瞑って呼吸を整えるように息を吐いた。

ピンポーン。
承太郎さんの来た合図だった。




来て早々にあらゆる水回りを固く閉めた承太郎さんが、持ってきた飲み物をテーブルへ並べる。
「缶か瓶詰めの飲料水と食物以外はヤバいから口にするな。オフクロさんは?」
「葬式の後、親戚の家に行ってもらいました」
「懸命だな、戻るのはアンジェロをぶっ倒してからだ」
アンジェロ、という言葉に反応した仗助がコームで髪型を整える。悲惨なキッチンの惨状を見て承太郎さんが少し考えてから「お前が何に当たろうが勝手だ」と言った。それはそうだけどもさすがに現状にはびっくりしてほしい。

「ところでお前の唇のその傷、この間俺が殴った時の傷だな。お前のスタンドは自分の傷は治せないのか?」
「…自分のスタンドで自分の傷は治せない」
そう。仗助のスタンドの難点はそこだ。自分には使えない。仗助自体を狙われるのが、一番しんどい。

「もし奴がお前の身体に侵入しちまって、体内から食い破られたらどうする?」
「死ぬでしょうね、侵入されたら俺の負けです」
静まりかえるキッチンに目を閉じる。早く、早くこんなこと終わらせたいと願った。



あれから3日も経ってしまった、何も行動を起こさないアンジェロに承太郎さんは時折外へと出て周りを見ていた。空は淀んでいて、今にも雨が降り出しそうだった。雨…?

「…雨だ…」

「え、夏、今なんつった…?」

「マズいよ仗助!承太郎さんに今すぐ家の中に戻ってもらわないと!!」
立ち上がり外へと飛び出そうとしたところで、仗助が止める。窓を見るとポツポツと雨が降っていた。
「承太郎さんはきっと大丈夫だ、それより変な音がする」
「な、に…?これ…これって…」

洗面所の水が流れる音や、コンロでお湯を沸かした時になるキューキューとした音が聞こえる。慌てて部屋を飛び出した仗助を追いかけて階段を駆け下りた。タイミング良く入ってきた承太郎さんが「仗助っ!」と叫んだがそれを無視して仗助は台所へと入る。

「…いつの間にか湯を沸かした奴がいますよ…水道の蛇口もひねられてる…」

キッチンに入ると身に覚えがないヤカンや片手鍋に水が入っていて火をかけられていた。もくもくと蒸気が部屋の中を締めている。
「アンジェロのスタンドが家の中に入った」
「やっぱり…雨でですか?承太郎さん怪我が…」
「怪我は心配ない擦り傷だ。夏の言う通り、奴はお前らが水を飲むのを待ってたんじゃない、雨を待っていたのだ。奴のスタンドは雨の中…いや、液体の中を自由に動ける…ッ仗助ェ!!そのヤカンに近づくなァッ!!蒸気がヤツだ!!」

ハッとして仗助の背後を見ると煙がスタンドの形になり、仗助を襲うがすかさずスタンドがパンチを繰り出して瓶を割り中へ封じ込めようとする。
「逃げられた…!?」
「グレートですよこいつァ…瓶に捕まえることができねェ…」
「湯気に近寄るなよ、吸い込んだらやばい。この台所から出るんだ」
すぐさま私をコンロから遠い廊下側へと引っ張る承太郎さんの腕を掴み天井を見上げる。

「それが…台所から出ても無駄かも知れないんです」

「ッ!?」

ポツポツと水が落ちてくる天井を見て承太郎さんが言葉を詰まらす。
「アンジェロの奴、すでに屋根に何箇所も穴を開けてるんでしょうよ…2階は当然、外に行ってもヤバイということ…グレートですよ、これは…」
廊下に出た承太郎さんが水気のない場所を探す。その間に私も仗助も、意味はないだろうがなるべく蛇口を閉めていく。

「水の中に混じる能力というのがこれほど恐ろしく狡猾に迫ってくるとは…思わなかったぜ。結構頭の切れる奴だ」
承太郎さんが周りを見渡す。吸い込んだりしないようになるべく周りを気にして息を吸う。仗助が小さく笑い始めたので承太郎さんと顔を見合わせた。
「何がおかしい!追い詰められちまったんだぜ!」
「仗助?」
「だってですよ承太郎さん、じいちゃんの仇がこんな側まで近づいて来てんすよ…グレートですよこいつは!」

蒸気が絡みつき慌てて自分のスタンドで弾く。私のスタンド自体の攻撃力はそんなにないが、それでも払うことができるのだからアンジェロのスタンド自体も体内にさえ含まなければ本当にそんなに脅威ではないのだろう。今の状況はとってもまずいけど。弾いたスタンドが承太郎さんの方へ行き、攻撃を仕掛けたが同じくスタンドで弾かれ天井へぶつかり消えた。
「…さて仗助、この状況。お前なら、どう切り抜ける?」

「切り抜ける…?切り抜けるってのはちょいと違いますね…ッドラァッ!」
壁にスタンドで穴を空けて中へと入る。
「…ぶち壊し抜ける。早くこっちへ、壁がもどります」
「やれやれ」
「直るとはいえ、壁まで壊しちゃうなんて…」

仗助が開けた穴から部屋に入り蒸気を遮断できた。ふうと息を吐くと聞きなれない音が聞こえて3人して振り返る。
「なっ…」
「加湿器ッ!」
机の上に置かれていた加湿器を承太郎さんが蹴り飛ばすが既に遅く、仗助の口にアンジェロのスタンドが潜んでいた。その瞬間、息が止まった気がした。スタンドに触れれさえすればスタンド自体も小さくできるかもしれないと駆け寄る。でも小さくしたところで…どうなるの?

「仗助ッ!」
承太郎さんの声が部屋に響いた。

「勝った!!予想通りだぜ仗助!壁をぶち破ってこの部屋に来ると思ってたぜ!!」
「しまった!」
「そんなっ!」

「ぷぷぷっ!…競馬でも試験の問題でもよオ…予想したことがその通りハマってくれると今の俺みたいにうぷぷってなァ笑いが腹の底からラッキーって感じで込み上げてくるよな!うぷぷっうぷぷぷぷ…」

アンジェロのスタンドの声が部屋へ響く、スタンドを飲み込んだ仗助に近寄ると、伸ばした手を払い除けられ突き飛ばされた。
「っ仗助…!?」
どうして!?目の前で仗助が苦しみながらしゃがみこみ、喉を抑える。ハッとして仗助を見ると何故かスタンドのオーラがふつふつと漏れ始めた。まだ…終わってない?

「アンジェロの今言ったことは間違っていますよ…ッ承太郎さん…。予想したことがその通りハマっても笑いなんて全然込み上げて来ませんよ…このアンジェロの野郎に対してはね!!ッ」
スタンドが仗助の喉へ手を突っ込んで何かを引っ張る。
「ギャァァッ」
「こいつは…」
「ゴム手袋…?」
床に落ちた見覚えのあるピンク色のゴム手袋が叫び声をあげながらグニャグニャと動いてスタンドが中にいることを証明する。
「捕まえました…ちとばっちいですけど、すみませんっス…ゴム手袋をズタズタにして飲み込んでたんっスよ」
「よ、よかったぁ…」
「悪かったな夏、怪我はねェか?どこもぶつけなかったか?」
「私は平気だよ」

スタンドの入ったゴム手袋を持って窓を開く。仗助のスタンドがゴム手袋をぐるぐると回した途端、家の近くの木から誰かが叫び声を上げて飛び上がり落っこちた。
「なるほど、本体はあそこのようだな」
「急ぐぜ」
家を飛び出して木の近くまで行くと写真に映っていたアンジェロがうつ伏せになって倒れていて、こちらを見る。
「し、しまった…ッハァ!?」

「テメェが…」
「アンジェロか」

仗助と承太郎さんの気迫にビビって慌てて立ち上がり駆け出したアンジェロを逃さないと、その場へしゃがみこみ地面へ手を着く。
「逃すもんか!」

地面を歪ませてアンジェロが躓いて転んだ。岩へ背を向けて立ち上がったアンジェロを逃さないように、私のスタンドで足を攻撃しアンジェロの足の形を小さく変えた。
「足がァッ…ッ」
初めて他人というか対人に使ってみた。人体にもこのスタンドは使えるのかと我ながら関心する。にじり寄る仗助と承太郎に腰が引けているアンジェロが喚いた。

「ヒィィッ…まさかオメェらこの俺を殺すんじゃねェんだろうな!?そりゃあ俺は脱獄した死刑囚だ…しかし日本の法律が俺を死刑を決めたからといってオメェらに俺を裁く権利はねェぜ!?仗助ェ!俺はオメェのジジイをブチ殺してやったが、オメェに俺を死刑にして良い権利はねェ!!もし俺を殺したらオメェも俺と同じッ呪われた魂になるぜェ!!」
「ドラァッ!」
仗助がパンチをしてアンジェロの右手が岩と同化した。

コイツ、何を言いだしたんだろう。仗助が呪われた魂になるだって?

「…私が殺してやろうか」
咄嗟に出た声があまりにも低くて承太郎さんが私を見る。

「ヒィッ…手がァッ…」
スタンドを出して構える。足の大きさを変えられるんだから、内臓の大きさも変えられるんじゃァないんだろうか。

「夏、下がってろ…人を気安く指さしてがなり立てんじゃァねェぜ…」
仗助が私の肩を掴んで後ろへ引っ張った、承太郎さんに倒れ込んだところを抱えられる。
「お、お、俺の右手がッ!手がァァァッ!!!」
「誰ももうオメェを死刑にはしないぜ、俺も夏も、この承太郎さんも…もうオメェを死刑にはしない…刑務所に入ることもない…」

「…仗助、あとは任せるぜ」

承太郎さんの言葉に無言で頷く。おじさんの仇は、仗助のものだ。
「い、一体ッ…な、何をする気だッアッ!!テメェらはァァッ!!」
「永遠に供養しろ!!アンジェロ!!俺のじいちゃんも含めてテメェが殺した人間のなァッ!!!」
仗助のラッシュが全身に入り、気づいたらアンジェロはほとんど岩と同化していた。
「ヒィィッ…」
「じいちゃんの守ったこの街で…永久に生きるんだな…」


「…チックショォ…良い気になってんじゃねェぞ…どうせオメェらなんかアノ人がぶっ殺してくれんだからよォ…」
「アァ?あの人…?」
「そうだよ…あの学生服の俺に力をくれたあの人がなァッ!」

力をくれた?スタンドはある日突然に使えるものではないの?自分や仗助と違うパターンがあるのかと承太郎さんを振り返ると、承太郎さんが少し顔色を悪そうにして驚いていた。
「何…、まさか…意図的にスタンドを与えられる奴が居るとでも言うのか?」
「ビビったか!ゲヘヘッ」
「あ?それのどこにビビるっつーんだよ」
「いや…アンジェロは生まれついてのスタンド使いではない。それがどうしてスタンド能力を手に入れたのかが謎だった。だが、もし、スタンド能力を与えられる人間がいるとしたら…」
「恐ろしいよなァ…ゲヘヘヘ…教えてやろうか?」

アンジェロが思い出すように能力を与えられた時のことを話し始めた。古い弓矢で射られたという内容で、DIOという男がかつてスタンドと呼んでいた才能と言った。その瞬間、承太郎さんが今までにないくらい動揺した。
「DIO!?DIOだと…?」
「承太郎さん…?どうかし…」
「ギャァァッ」
叫び声が聞こえて振り返ると小さな男の子に、アンジェロのスタンドがゴム手袋の中にいる状態で首を締めていた。
「何ィッ!?」
「バァカめェェ!!俺の話に聞き惚れて俺のアクアネックレスを忘れていたようだなァッ!!」
「アンジェロ!貴様ッ!」
承太郎さんがアンジェロを睨みつける。
「助けなきゃ!仗助!!」
「仗助ェッ!!さっさと俺をこの岩から出しやがれェ!!」
雨で濡れた髪の毛を整える仗助を見て、息を飲む。すごく、怒ってる。
「…俺の心の中に、イマイチオメェに対する怒りが足りなかったか…」
「なァにやってんだァ!チンケな髪なんか弄ってんじゃねぇ!!ガキをぶっ殺すぞ!!早く出せっつったら出せェッ!!」
「お前っ…!」
アンジェロが仗助の髪型をバカにしたことで仗助が完全にブチキレた。承太郎さんが慌てて止めに入るけど、切れスイッチが入った仗助にはもう声は聞こえない。

「俺の髪が…なんだってェッ!?」

「早まるな!仗助ッ!!」
「お、オメェ俺を殺ったら学生服の男が黙ってねぇぞ!その男もこの街に住んでる」
「何ィッ!?仗助ちょっと待て!」
承太郎さんの制止の声は聞こえず仗助はスタンドでのラッシュをキメて、アンジェロは完全に岩と同化してしまった。男の子に絡みついていたスタンドは、アンジェロが岩と同化したことで力を失ったのか静かに離れた。

「やはりさっきは怒りが足りなかったぜ…このゲス野郎はこのぐらいグレートに岩に埋め込まなきゃァいけなかったんだぜ…」
「はあ…やれやれだぜ…もう少しコイツから話を聞きたかったんだが…」
解放された男の子が慌てて駆けていき、承太郎さんはため息をついた。

「え、信じてるんスかあんなホラ話…」
「ホラじゃない。こいつはDIOという名前を言った」
「承太郎さんさっきもそのDIOって名前に引っかかってましたよね」
「なんなんです…ソイツ」
仗助が怪訝な顔をして承太郎さんへ問いかける。承太郎さんが少し考えた後に口を開いた。

「100年以上前からジョースター家の人間が戦ってきた男だ、俺は夏の叔母、雅を含めた仲間と共にDIOと戦い、そして倒した。だが一つだけわからなかったことがある。1987年…DIOという男が何故突然スタンドを身につけたのか…」
「もしかして…こいつをスタンド使いにした…」
「ああ…新しい敵かもしれん…学生服の男、というより…ソイツの持っていた弓と矢がな…」
承太郎さんがそう言って家へと戻った。その男がすぐ近くまで来ているとは、私たちも知らずに。