02.塀の中のギャングに会え


丘での話を終え、ジョルノを連れてある場所へと向かう。行き先はポルポのいる刑務所。道のりを歩きながらブチャラティはジョルノへうちの組織…パッショーネについて語り始めた。

「俺たちの組織はこのネアポリスのあらゆる産業を支配している、パッショーネ…それが組織の名だ。パッショーネは情熱という意味だが、それがそのままボスの名前ではない。実際にボスの名前を知る者はいないし、姿や顔を見た者もいない。何人かの幹部を介して命令を下してくる。」

異様な話だとは思うがこれが事実であり、この組織の構図だ。ブチャラティも私も、そして誰もがボスを見たことがない。
まあ私にとってボスが誰であっても構いはしないし、私を救ったブチャラティと共に生きれるならそれで構わないからだ。

目的地についてブチャラティは指を差す。
「ジョルノ、お前の入団を決定する幹部はポルポという名の男だ。彼は、この建物の中にいる」
その先には石畳に厳重に囲まれた施設があった。

「この建物って…ここは刑務所だが」
「そうだ…ポルポはある罪で有罪になって15年は出てこない。だが彼はこの中から俺に命令を下し、組織にパワーを振るっている。彼はその気になればいつでもここを出ることができる。だが、それをしない。その必要がないんだ」
「なぜ?」
「行けばわかるよ。ジョルノ・ジョバァーナ、君はこれから彼の面接を受け合格しなくてはいけない。就職するのと同じさ、どんな面接かは彼の気分次第だが…くれぐれも彼にバレるなよ」
「…わかりました」
ブチャラティの忠告にジョルノは頷き、刑務所の入口へと歩き出した。ふと思い出すように振り返る。
「そうだ、スタンド能力…とか言ってたよね。アンタは何故あの能力を身につけたのか聞いていなかったが、他にもいるのか?」
「それもいけばわかる、合格すれば、な」
ブチャラティの言葉にジョルノは納得したのか、返答はしなかった。

「付き添いにはアンナが付く、いいか?」
「了解」
ブチャラティの言葉に頷きジョルノへ視線を向ける。ポルポの試験は特殊なことが多い。私のように生まれ持ったスタンドを持っているジョルノならクリアできるだろう。ブチャラティもそれを思って私へ視線を向けてから頷いた。もしジョルノがそれで命を落とすことになったとしても、何も言ってはいけないし、何もしてはいけない。そんな風な目線だった。
「アンナ、よろしくお願いしますね」
「ええ、よろしく」
差し出された手を握った。

看守に身体検査を受けるジョルノの声が外から聞こえながら先に監房へ入った私はブチャラティから頼まれていた報告をポルポへ行い、ジョルノが入ってくるのを待った。
「次の男は使えそうなのかね?」
「私からは何も言えません」
強化ガラス越しにニタニタしながら問われた質問に首を振る。ブチャラティから何も言ってはいけないと言われている。ポルポも私の返答には慣れたように「それもそうだ」と言った。

ポルポが内心思っていることを予想するならおそらく私のことを使い辛い女だと思っているだろう。でも幹部からすれば私の存在なんてピザに乗る細かく刻んだバジルみたいなものだ。
「(私はブチャラティを裏切らない、それだけで幹部からすれば『都合のいい』駒であることは間違いないだろうから)」
監獄の柵格子が開かれ、明るい金髪のジョルノが入ってきた。

「ジョルノ・ジョバァーナ、いらっしゃい。ポルポさんへ挨拶を」
壁にもたれかかり、ジョルノへ伝えると強化ガラスの中を見ていた彼は何を言っているんだという顔をした。
「怪我でもしているのかね、その左腕」
「っ!?」
「君の右手の指にだけ微かに赤くなって握ったような跡がついているね、鞄を握ったような筋がね、つまりキミは右手だけで鞄を持っていたってことだ…その理由は?」
「ええ、まぁ…そうです…右手だけで鞄を持っていました。確かに左腕を怪我しましたから…」
「プふー…ふん、羨ましいね、肉体的に無茶ができて…ワインでも飲むかね?極上のキャンティ・クラシコがある。スカモルッツァチーズとキャビアをクラッカーにのせて食べるとよくあうぞ」
ジョルノの返答に特に興味もなさそうにポルポが冷蔵庫からワインを取り出した。グラスを出し、私とジョルノへ聞く。
「何も渡してはならないし、何ももらってはいけないと言われています」
「プふぅ〜…言っているだけだよ、人間とは言ってることとやってることは違うんだなぁあ」
リモコンを押し、壁が開いた。中にはテレビやビデオデッキ、バイオリンなど更には拳銃や小型爆弾すらある。何度も見慣れている光景にぼんやりしていると、ポルポはワインの入った一つのグラスを私に飲むように受け渡し口に置いた。
「そこが人間の良さであり、悪しきところなんだがね…この牢獄において不自由することといえば…そうだなあシスティーナ礼拝堂のミケランジェロの壁画が見れないことかなあゴッホとゴーギャンはあるんだが…」
渡されたワインを口に含みながら行先を見守る。ジョルノは今頃状況に理解できずに困惑していることだろう。それを知ってか知らずかポルポはクラッカーを食べながらワインを飲んだ。

「君のことはそこのアンナ経由でブチャラティから聞いてたよプふぅ…我々の組織に入りたいんだって?えーと…ジョルノ・ジョバァーナくん…どれ…それじゃあ『面接試験』を始めるとするかな…」



黙り込むジョルノの顔は真剣で、おそらくポルポもスタンド使いだと気づいたのだろう。鋭い目で睨んでいた。
「人が人を選ぶにあたって、一番『大切な』こととはなんだと思うかね?ジョルノ・ジョバァーナ君…」
「…『何ができるか』ですか?」
「ほう…君はなにができるんだね?」
ポルポの言葉にジョルノが握りしめていた手を前へ出し、パッと開いた。落ちてきたのはここの看守たちの手帳や少しのお金だった。まぁ私は彼のスタンドを知っているから容易いことだと思うけど、知らないポルポは少しだけ驚いた様子で感心した。

他にはないのかね、と笑うポルポに「耳の穴に耳を入れることくらいしか…」と言いながら実際に入れて見せるジョルノに面白くて少しだけ私も口角が上がってしまった。

「フフフフッホッホッホぷふぅ…なかなか面白いな…だがね、最も大切なことと言うのは他にあるんだ。それは『信頼』だよ、ジョルノ・ジョバァーナ君!人が人を選ぶ上に当たって最も大切なのは『信頼』なんだ。それに比べたら頭がいいとか、才能があるなんて事はこのクラッカーの歯くそほどの事もないんだ!テストというのは君の『信頼』を見る事なんだ…この『ライター』の『炎』でなッ!!手に取りたまえ、炎を消さないようにな」

ポルポはやはりライターの試験を出してきた。この意味を知っている私からすると、ジョルノであればなんとかなるだろうと確信できる。受け渡し口に置かれたライターをジョルノはゆっくりと受け取る。風で揺れた火を見てポルポが言い忘れたとでも言うように口を開いた。
「おっと、炎が消えないように気をつけたまえよ!フラーという17世紀の神学者が言った『見えないところで友人の事をよく言ってる人こそ信頼できる』と…。我々の組織に入るには見えないところで『信頼』を示してもらわなくてはならないんだ。24時間、君にその『炎』を消さずにライターを持っていて貰おう!それができたら…君の入団を認めよう。簡単だろ?ライターのガスは十分にある…炎が消えないように明日の3時まで静かに自分の部屋で見張るだけでいいんだ。君が注意深く努力して見張る男なら『炎』は消えないだろう…君は『信頼』できる男という事だ。だが、君が!!もし!!私のことを軽く考えているような男なら…居眠したりクシャミしたり…あるいは倒したり、突然風が吹いて炎が消えたりしたなら…君は『信頼』できない男!…ということだ。入団は許可できない。さあライターを手に取りたまえッ!これが入団の試験だ!」

私を見るジョルノに頷く。ライターを手にした瞬間に、試験は始まる。そして私にも辛い24時間が始まるのだ。

「そうそう、試験官としてアンナが付く。疑問に思ったことがあれば聞くといい、まあ彼女が何か答えることはないと思うがね」
ちらっと私を見たポルポに対し頭を下げる。

「さあ、ジョルノ・ジョバァーナ行きなさい。看守の『ボディチェック』の時間よ」
「何ッ!?」
ガシャンッと音がして、柵格子が閉まる。その瞬間に私もスタンドを使い姿を消した。看守からすれば、ジョルノしか監房に入っていないからだ。私が見つかるわけにはいかない。まず最初の試練よ、ジョルノ。





「やるじゃないジョルノ、ライターを花に変えて火を花びらに隠すなんて」
「アンナ、なんで言ってくれなかったんですか」
「私はあくまでも貴方が不正したりしないようにする監視員なの。何も答えられない、ごめんなさい」
「…」
ポルポのライターをスタンド能力でうまい具合に花へ変え、外へ持ち出すことに成功したジョルノに姿を見せる。ジョルノは突然姿を見せたのにも関わらず驚きもしないで試験のことについて聞いてきた。私の返答については納得いかないのだろうけど、こちらもいくら昔馴染みとは言え甘やかすわけにはいかない。
「私のことは気にしないでジョルノには見えない形で見守っているから」
「…わかりました」
スタンドを使い姿を消す。ジョルノ、どうかこの試験の本質を見余らないでね。そんな私の気持ちを知らずに寮へと歩き始めた。

見えない状態でジョルノの後を追う、見慣れない学校風景を眺めながら寮の廊下を歩く。外から聞こえる同世代の賑やかな声が平和を感じた。どうやら部屋についたみたいで室内へと入っていく。そのまま部屋にも一緒に入り、ライターを上手く固定したジョルノがドアの窓に鍵をしようと窓際に寄ったところでドアが開いた。

「(誰?)」

咄嗟にジョルノは外に出たみたいだけど、部屋に入ってきたのは小柄なアジア人で机を漁り始める。ライターを回収するのに必死な状況にハラハラと胃が痛んだ。なんとかライターを回収したジョルノを追いかけて外にでた。

目立つ金髪を見つけて近寄ったところで手に持っていたライターの炎が消えていたのに気づく。あ、やってしまった。いやそれは問題ではない。問題はジョルノの前に立っていた老人が『ライターの火を点けた』ことなのだ。咄嗟に自身のスタンドを解除した。

「ジョルノーッッ!!その老人から離れなさい!!」
「ッアンナ!?」
私が突然現れ声を荒げたことに気づいて振り返る。そこにいたのはポルポのスタンド『ブラック・サバス』で、再点火した老人の精神のみを掴み上げていた。

「お前、再点火したな?チャンスをやろう。お前が向かうべき2つの道を」

「こ、こいつはッ!?」
「1つは生きて選ばれるものへの道、さもなくば死への道…お前は再点火したのだ。受けてもらうぞ」
ぐずり、醜い音を立てて矢が老人の額を貫く。精神状態の老人は頭から血を流すが本体には何も影響がない。
「馬鹿なッ!?貴様何をやっているんだ!!」
「この魂…選ばれるべきものでは無かった…」
スタンドが開花されなかった老人はゴミのように捨てられ、ジョルノが受け止める。残念だけど巻き込まれたこの老人は死亡してしまった。後退りする姿を見て階段を駆け下り、ジョルノに近寄る。

「それ以上下がってはいけない!」

影を踏み、スタンドの頭がジョルノへ向く。
「お前も再点火したな!?チャンスをやろう。向かうべき2つの道を!」
いけない。影を移動するブラック・サバスのスピードには勝てない。飛びこんでジョルノを突き飛ばす。
「ジョルノ!逃げなさい!!」
「アンナ!?」
ジョルノを突き飛ばし、ブラック・サバスの追跡を一時的に回避したが、舌打ちをして自身のスタンドを利用し姿を消す。体制を整えたジョルノがまた影を踏んでしまい、ポルポのスタンドが素早く移動してゴールドエクスペリエンスを掴む。

なんてことだ一度掴まれてしまったらどうしようもない。矢がジョルノを貫こうとし、右手で刃を止めた。しかしブラック・サバスは矢で貫くことを基本とした簡単な動作しかできないスタンドだけにパワーは異常なまでに強い。退けることはできないだろう。

「やむおえない!例えポルポが組織の幹部であろうと、僕の夢を阻み、あの爺さんのように関係のない者をゴミ屑のように殺す奴であるのなら倒さねばならない!」
ジョルノがそう言って無駄無駄無駄!とラッシュをいれる。ゴールドエクスペリエンスのパンチがモロに当たった。ブチャラティのようにスタンドにも能力が効くとしたのなら、ブラック・サバスの動くはとても遅くなっているだろう。

スタンドを一部解除してジョルノにのみ見えるように叫んだ。
「ジョルノ!!影から離れなさい!!!!」
「何ッ?!」
私の声を聞いたが一歩遅かったようで、ジョルノの身体に矢がゆっくりと刺さり始めている。力強いパワーに身動きが取れないようで、形勢がまた戻ってしまった。

「ヌゥ…ッ」
太陽の光を浴びてブラック・サバスがジョルノから手を引いた。チャンスだと思い、その隙に近寄り影のないところへ引っ張った。

「影を踏んではいけない。ポルポのスタンド、ブラック・サバスは影の中を移動するスタンド…。そして再点火を見たものは地の果てまで追いかけてくるわ」
「なんだって?もうすぐ太陽は校舎の裏側に沈んでここら辺一帯は影になってしまうじゃないか!」
「ッ」
やばい、言い過ぎてしまった。慌てて口を抑えた私を見てジョルノが焦ったような目で問いてくる。
「どうすればいいんです!?」
「それは…」
言えない。それも含めての試験なのだから。それに影を踏んではいけないと教えてしまったのも割とアウトだ。目線を逸らした私を見てすぐにジョルノは回答でない私に納得し、日光に引きずり出すしかない、と判断した。

「(正解よジョルノ…)」
何も答えてはいけない私を許してほしい。睨み合うジョルノとブラック・サバスの緊張感に息を飲んだ。

「君は…何をやっているんだ!!ジョルノ・ジョバァーナ!!」
「康一っ!?」
突然のイレギュラーに、息が止まった。