「んっ。……ほっ、と。……うーん…」

届かない

「あと、ちょっと、なの、に!!」
「……そこのメイド、何してるんだ?」

先ほどから棚の前で奮闘している少女の姿に疑問を覚えたのだろう。長い赤色の髪を背中まで伸ばした青年が、その小柄な後ろ姿に問いかける。
ピクリ、と揺れた肩。かと思えば、先ほどまで一心に棚に向かっていた少女は思いきり振り返った。

「ル、ルーク様!!………え、ええとですね…」
「どうしたんだ?」

主君におかしな場面を見せてしまったからだろうか。どことなく引きつった顔で、あの、や、ええと、などを繰り返し誤魔化そうとしている。しかしそれにも気づかず青年がもう一度尋ねれば、少女は振り回していた手を下ろし、苦笑を浮かべた。

「その…棚に花瓶を置きたいのですが、身長が足らず……」
「届かなかったのか?」
「う゛……はい…」

がくり、と肩を落とし恥ずかしそうにする少女を見つめ、青年は言葉を続けた。

「俺が乗せてやるよ」
「え、いいんですか!?…あ、いや、でもやっぱりルーク様にそんな事は……」

ぱあぁ、と一度は顔を明るくさせるが、すぐにしゅん、とまた小さくなる。小動物のようだ、と思いながらルークは少女の言葉を遮った。

「いいから貸せ!」

少女の両腕にしっかりと抱えこまれていたそれを奪い取り、花瓶が入りそうな場所を探す。目を泳がせていたルークだが、すぐに目ぼしい場所を見つけたのだろう。コトン、と小さな音をさせて掴んでいたものをそっと置いた。

「……あ、ありがとうございます!!」

しばらく茫然と目の前の人物の行動を見ていたが、青年が置き終わると我にかえりすぐさま礼を言う。

「いや……って!お前その怪我どうしたんだ!?」

それに少し照れたような素振りで言葉を返そうと少女を振り返り、その姿を目に入れた瞬間、目を見開く。感動したのか、胸の前で組まれた手の片方の甲に、一筋の赤い線が刻まれていた。

「あ、これですか?ちょっとさっき奮闘していた時に、棚から出ていたネジに引っかけちゃって………って、ルーク様!?」

苦笑を浮かべていたその顔が、赤く染まる。
少女の視線の先には、彼女の怪我の部分をその舌で舐める青年がいた。

「ななな、な、なな何をされてい、いいるんですか!?」
「何って……消毒」
「普通に返さないでください!!」

少女の叫びに顔を離し、少し間をあけた後に答える。涼しい顔をして答えた彼にまだ顔を赤くさせたまま少女が叫び腕を振り回す。
するとその手を取り、

「怪我をするお前が悪いんだろ。……今度からは気をつけろよ、なまえ」

最後に囁かれた自分の名に目を見開き、思わずその整った顔を凝視する。そんな少女に構わず、ルークはまたもや行動を起こした。
ちゅ、とリップ音を立て怪我をしている方の甲に唇を落とす。
その様子に思わず少女が腕を引くが、その腕が離されることは無かった。

そして、そのまま腕を引かれ、温かな優しい腕の中にすっぽりと身体を埋める。

「………え……」

何が起こったかよく分からず、瞬きを繰り返す少女の耳に、ルークは唇を寄せた。


「――――――――」



「………え゛ぇ!?」




公爵夫人にならないか?
(え、え、ププ、プロポーズ!?)(覚悟しておけよ)









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