「ジェイド、入っていい?」

コンコン、と2回音をたててから声をかける。日付は越えてないにしろもう夜中と言ってもいい時間。本でも読んでるのかな、なんて思いながら扉の前に立ち尽くしていると、小さく了解の声がきこえた。
わ、バスローブ。お風呂からあがったばかりなのか、まだ水っ気のある髪を背中に流し、優雅に座りながら本を読んでいた。

「どうしたんですか?」

本から目を離さずに尋ねるジェイドはいつも通りだけど、訪ねた目的を思うとちょっとむっとしてしまう。

「あのね、今日は私の誕生日でしょう?それでね、一つ欲しいものがあるの」
「おや、私はあなたに贈り物をすでにした記憶があるんですが」
「あ、ブレスレットありがとう、とっても可愛くて嬉しかったよ」
「それはよかったです」

今日は私の二十歳の誕生日で、ジェイドからはとても値の張りそうなブレスレットをもらっている。仕事が忙しくて直接は渡してもらえなかったけれど、枕元に置いてあったそれは本当に素敵なものだった。
しかし、それとこれとは話が別なのだ。

「それで、欲しいものなんだけど……ジェイド、が欲しい、の」
「……私、ですか?」

これは私にとってはとても大切なお願いだから、まっすぐにジェイドを見て言葉を紡いだ。内容はやっぱり予想外だったみたいで、ジェイドは珍しく目を見開いて私を振り返って、ますます驚いて私を見つめた。

「そして」

しばらく居座っていた扉の前から足を動かし、固まっているジェイドの目の前に立つ。本当に珍しいな、こんなジェイド。

「私を、ジェイドのものにして下さい」

そっと彼の右手を両手で握り、その赤い目を見つめた。固まったまま数度瞬きをした彼は、本当に珍しい。今までジェイドと長年一緒に暮らしていたけれど、こんなに驚いている姿を見るのは初めてだ。

「……それで、そんな格好をしているんですか?」

少しばかり続いた沈黙を破ったのは、これまた耳にしたことのない低い声だった。
驚いて顔をあげると、やっぱり見たことのない色をした目と視線があう。赤い目であることには変わりはないのに、そこに浮かぶ深みというかそういうものは見たことがないもので、少しだけこわく感じた。

「……そうだよ」
「自分が言っていることの意味が、本当に分かっているんですか?」
「分かってるよ。――冗談でこんなこと、言えるわけないじゃない。私、そんな人間じゃないよ」

信じてもらえないの?私、そんな人間だと思われてるの?不安になって、両手に力をこめる。と、ぴくりと動いたそれは、なだめるように私の手を撫でた。

「――いえ、冗談だとは思っていませんよ。そんな格好を見てしまえば、ね」

苦く笑った彼は、私の姿を見てますます苦さを深めた。その言葉に自分の身体に目を落とすと、今さらながら恥ずかしくなってきた。無我夢中というか、本当に真剣で一生懸命だったからあんまり意識をしていなかったけれど、いざ言われてみると羞恥心がむくむくと成長してくる。

「だ、だってジェイドは大人の男のひとだから、これぐらいしないと駄目だと思って……っ、ひゃあ!?」

かあああっと顔どころか全身が火照りだし、目に涙がたまってくる。その姿のまま半ば睨み付けるようにジェイドを見据えると、突然背中に体温を感じた。
変な声をあげてしまった羞恥と驚きから目の前の彼を見つめるけれど、その表情は光を反射する眼鏡のせいで分からない。

「こんな下着が丸見えの、服とも呼べないようなものを着て、そんな顔をして見つめてきて。誰に教えてもらったんですか?なまえ?」
「別に、誰にも教えてもらってなん…っ、ひ、ちょ、どこ触っ、…ぁっ……!」

肌に直接纏う勇気はなかったため、下着の上から着た透け透けのネグリジェを下から手を差し込み、捲りながら背中を指でなぞってくる。ぞわっと背筋に走る何かのせいで漏れる声が恥ずかしくて、頭がふわふわしてきた。

「……ひっ、あ、ちょ、舐め……、んっ……!」

ジェイドの問いへの私の答えをきき、しばらく黙ったあとに今度は私の首もとに顔を埋め、そ、その…な、舐めたり、すす、吸ったりしてきき、きた。一体どうなってるの…!?

「や、やだ、ジェイド…?……こ、こわい、よ…っ」

無言でそれらの行為を続けるジェイドに、寂しさと恐怖を感じて、いつの間にか密着していた彼の身体にすがりつく。そうすると腕の中の身体はしばらく硬直したあとに、はあ、と大きなため息とともに弛緩した。

「すみません、少し我を見失っていました……はあ…。怖がらせてしまいましたね、すみませんなまえ」
「う、うん…。一体どうした、の?」
「いえ……。もうこんな時間です、明日も早いのだからもう寝なさい」

身体を私から離したジェイドは一度眼鏡を指で直してから、私の問いにも答えずに誤魔化すように寝るように勧めてきた。
確かに、色々とあってジェイドに抱いてもらう気もなくなったし、安心したせいか眠気も襲ってきたけど…。

「あ、あの、……い、一緒に、寝てくれない、かな?」
「………………………一緒、ですか」
「う、うん。…毎年、私の誕生日の時は一緒に寝てくれてたでしょう?」
「…はあ。そうですね、一緒に寝ましょうか」

おそるおそるした提案に――なぜかしばらく沈黙があったけれど――ジェイドが良い返事をくれたので気持ちが一気に明るくなった。
最近忙しくてあんまり一緒に寝れてなかったからすごく久しぶり!

「ありがとうジェイド!大好き!」
「……えぇ、私も好きですよ、なまえ」

その明るい気分のままジェイドに感謝を表すと、なぜか苦笑しながらいつものように額に唇をよせてくれた。変なジェイド。






君はまだ、シンデレラ










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