「ど、どうしよう……」

ああ、またまゆげがへにょりと下がってるのを感じる……うう。入ったことのない校舎はわたしの知ってるものよりもずいぶん大きくて、そびえ立つ、という表現がしっくりくる。この中に装備ナシ、レベル0で挑むなんて無謀中の無謀としか思えないわけで。

「うっ…おねーちゃんどこぉ………」

ぶわりと浮かんできた涙をこらえ、しかたなく校舎の方向へと足を進める。なんでここ、裏門の周りがこんなに自然に溢れてるんだろう…。

「っきゃ!?」
「うお!?」

なんだか薄暗くてこわくて、下を向いてせっせと足を動かしていたらドンッと体に衝撃。尻もちをついた状態のまま視線を前に向けた瞬間、ピシリと全身が固まったのを感じる。

「…んあ?なんでこんなとこに女がいるんだよ」

わたしの向かいでこれまた尻もちをついたままギロリとこちらを睨む鋭い目。銀色の髪と耳についたピアスと相まって、すごく控えめに言ってとてもこわい。

「ひ、ひえ、あの、その、ああああやしい者ではなくてですね……!その、あの、」
「いや、その言動が十分怪しいだろ」
「うっ……。あの、ぷ、プロデュース科の人に届け物があって、…うっ、すみません……」

こわいよう、こわいよう!どうしてわたしちゃんと前を見て歩いてなかったんだろう。ちゃんと前を見て歩いてたら、こんなこわい人にぶつかって睨まれることもなかったのに。
おねーちゃんには連絡つかないし会えないし、知らない校舎で迷子になるし、こわい人にはぶつかっちゃうしもうやださんざんすぎる泣きたいおうちに帰りたいよう。

「んなっ!?べ、別に脅かしてるわけじゃねーんだから泣かなくたっていいだろ!」
「うーっ、ずびばぜん〜〜!」
「あーもう、別に怒ってねーから!プロデュース科っつったな?連れてってやるからついて来い!」
「っ、ふわ!?」

ぶつかった衝撃で引っ込んでいた涙がふたたびぶわりと浮かんでくる。今度は恐怖のせいか目からぽろぽろと、というかむしろぼろぼろとあふれて止まらない。目の前の銀髪の人がギョッと目を見開いてあわてたみたいに何かを言ってくるけれど、一度決壊しちゃった涙腺はどうにもならなくて謝ることしかできなかった。
そうしているうちに勢いよく立ち上がった彼は、その勢いのままどことなく困った表情で言葉を続ける。こちらに向かって伸ばされた腕はわたしが怯えないようにか、それまでの彼の動きよりは比較的ゆっくりとした動作でわたしの腕をつかんで立たせた。

「あ、あの…手首、」
「うるせえ。普通科だかなんだか知らねーけど、途中で迷われたら俺様が迷惑なんだよ、黙ってついて来い」
「うっ……はい」

しっかりと、けれど優しく握られた手首は他の場所よりもぽかぽかと暖かくて。でもなんだかむずむず落ち着かなくて。歩きながら小さく主張してみたけれど、離してもらえないらしい。そりゃ初めての所だし迷子オーラ全開だったかもしれないけど、こんな近くにひとがいるのに迷うなんていくらなんでもしないのになあ。なんてしょんぼりしながら前を歩く男のひとの背中を見てたら、他より赤いところがあって。
あれ?と思って視線を向けてみたらそこは銀色のピアスがついた耳で。それに気づいてからはなんだかよくわからないけれど、はずかしくてたまらなかった。










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