「これは個人的な考えなんだけどさ、嵐山」
「ああ」
「うん、やっと分かったよ。嵐山はそもそもとして、容量が大きかったんだな」
「……容量? いや、きっとお前が言うんだから考えがあってのことなんだろう。続けてくれ」
 この男、おそらく似たようなフレーズを共通の友人であるあの男にも吐いているのだろうな、などと考えながら、名字は視線を嵐山に向けた。お互いテーブルの上の定食はもう全て胃の中に収まっている。食後のコーヒーをちびちび飲んでいるのが申し訳なくなってきた。いつも講義が終わればキビキビとした動きでペン、ノート、配布物などを片付けて「また明日」だなんて、食堂で見かけてもスマホを弄って時間を潰しているところなんてほとんど見たことない。勿論、友人がいる場合は食後の雑談にも付き合うしベンチでコーヒーを飲んでる姿くらい、一応見たことはある。ただそれでも、ボーダーとしての任務やテレビでの広報の合間を縫って大学に通っているこの男を見るとどうしたって休んで欲しいだとか、私に構う暇があったら気心の知れたボーダーの友人達と話したいのではと思ってしまうらしい。
「折角のお昼を私と過ごしてていいなら続ける、けど……」
「なんだ。ここまで言っておいて教えてくれないのか?」
「……私は多分、嵐山のように色々なことを考えられないんだ。家族のこと、仲良い女子グループの子達のこと、嵐山のことで満杯なんだよ。でも嵐山は、家族、ボーダーの仲間に友人に後輩に、大学の友人、何より三門市民、守るべき人達。私だったら容量オーバーだ」
「別に、その“容量”には個人差があって、上限があるんだ。多い少ないより、おれはその中で誰がどれ程の割合を占めるかを重視するさ」

 そこで丁度、珈琲を飲み終わった。それでもすぐには返答しない。ぱちぱち、というおそらく驚きが含まれた瞬きの後、意味合いの変わった一回の瞬きと深呼吸。嵐山はそれが名字のいつもの癖だと分かっているから何も言わないし、名字もそれに甘えて、時間をかけてその言葉の意味を咀嚼する。
「お前、それはずるくないか……?」
「ははっ。ようやく絞り出したのがそれか」
「……嵐山の一番はご家族なのに、私の容量の大半を占めるのは、お前なんだが」
 名字は嵐山准という存在を認識してから、何より尊ばれる存在であって欲しいと思っている。それがこの人間にとっての愛し方で、愛する存在全てに共通して向けている感情だった。
「おれに対して感情を向けてくれて、ありがとう。本当に嬉しい」
「……うん。どういたしまして」
 互いに、一番という概念に固執するタイプではない。愛そうと思ったものは自分の容量が許す限り愛するし、尊ぶのだ。ただ、名字は人より手のひらですくえるものが少なくて、嵐山は人よりすくえるものが多かったという、それだけの話。
prevnext
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -