愛しき人よ | ナノ

 
目を閉じると、あの日の残像が今でも頭を過る。



「…名前、」

『どうしたの?メフィスト。…ああもう、終わったらすぐ帰ってくるから。ね?』

「……」



仕方なくふと苦笑する表情。
…ああ私は今どんな顔をしている?…情けない。ただの予感に、身体が震えているなんて。



『メフィスト?』

「…必ず、必ず帰ってくると、約束してください」



小さな身体を全身で包み込んで、愛撫するように優しく、優しく柔らかな肌を抱く。



『…うん。約束、する』



そう言って小さな身体を懸命に伸ばして、私の唇へソッと口づける。
物足りないとせがむ私を押し退けて、彼女は笑った。



『また、後でね』



「…名前、お前は嘘つきだな」



約束だと、言ったのはお前なのに。

目を閉じる度に見る夢は、あの朝。言ってきますと笑顔を浮かべ、彼女が扉を開けた瞬間に私は目を覚ます。…もう、何度目だろうか。

私の心は、あの瞬間から止まっていた。



夢の中の彼女は、いつも微笑んでいた



2011/12/27