「悪魔に、憑依されて……駆けつけた時には、もう…」
くしゃりと顔を歪めて報告する奥村先生に、私はただそうですかと答えた。
視線の先にある手は、きつく握り締められている。…ああ、貴方は優しい人だ。血が滴る程、彼女の死を痛んでいるのだから。
「すみませんが、少し席を外して頂けますか?」
「……わかりました」
失礼します。と小さく聞こえてパタンと扉が閉まる。
淹れた紅茶は、既に冷たくなっていた。
「……そうか」
死んでしまったのか、名前は。…もう、あの笑顔を見る事は出来ないのか。
…名前。…名前、名前、名前…
「愛して、います」
広い部屋に、呟いた言葉は消えていく。
目の前に広がる彼女の照れた残像は、とても鮮明に私の目に焼きついた。
君が居ない部屋に、愛を囁いた
2011/11/30
2011/12/27 加筆