「…久しぶりですね、名前」
名前が刻まれる石の前に立って、そう告げる。 月の光が私を照らして、影を作った。
此処には、名前が死んで以来来ていない。 たったひとつの答えに辿り着くまで、どれ程遠回りしたのかよくわかる。
「もう、終わらせに来ました」
刻まれる名前を指でなぞる。冷たく冷えきったそれは、真っ白な彼女を思い出させた。
「…名前、私は貴女を愛しています」
あの時、あの手を離さなければ貴女はきっと今でも私の隣で微笑んでいた筈だった。貴女の未来を奪ったのは、紛れもない私なのだから。
「…だが、貴女は自分を責める私を、きっと責めるでしょう?」
涙を溢れる程溜めて、頬を膨らませながら貴女はきっと私を睨みつける。 想像した彼女の姿に、クスリと笑みが浮かんだ。
「…この私が、まさか人間に気づかされるとはな…」
鋭い瞳をした彼を思い出してふと自嘲気味に笑む。
…ああでも、渦巻いていた何かが取り除かれていくのがわかる。私はやっと、救われるのか。
「…女々しいな。終わらせに来たというのに、離れられないのだから」
軽くなった心に、残るものは幸せと呼べる日々の思い出。 今が過去に、過去は思い出に。変わらない事は、貴女が此処に居ないという事実だけ。
「名前…」
…私は貴女を、決して忘れはしない。たとえ他の誰かが貴女を忘れたとしても、私はずっと…貴女だけを。
「私がいつか、貴女の元へ行けたなら…またあの笑顔を、見せてくれますか?」
小さく問い掛けた言葉に、ソッと夜空を見上げる。 散りばめられた星のひとつが、答えるように煌めいた。
愛しき人よ
貴女は私の、すべてだった
Fin...
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