愛しき人よ | ナノ

 
目を開けると、そこには名前が微笑みながら私の前に立っていた。



『メフィスト、好きよ』



そう言って頬を染めながら微笑む名前を、私は迷う事なく抱き寄せた。
頬に、額に、唇に口づけて、愛を繋ぐ。

瞑っていた目を開くと、抱き寄せていた筈の名前は何処にも居ない。



「…名前、」



反響する自身の声はやけに寂しく聞こえる。
わかっているのだ。これが夢である事くらい。…名前はもう、居ないという事くらい。



『メフィスト』

「名前…」



ふわりと背中に感じる温もり。優しい声色にふと気持ちが休まる。



『愛してる…ずっと』

「……っ」



スゥ…と離れて行ってしまう名前の身体。咄嗟に伸ばした腕は、何も掴む事は出来なかった。



「……お前は狡い女だな」



朝日の漏れる部屋で自嘲気味にそう溢す私の頬は、もう涙で濡れてはいなかった。



涙で迎える朝に、さようなら



2012/01/28