「兄上、お久しぶりです」
カラコロと口の中で飴を転がしながら窓を割って部屋へ入ってくるアマイモンに、私は重い溜め息を吐いた。
「アマイモン…窓から入って来るのはやめろと言っただろう」
「…?ハイ、スミマセン」
悪びれる素振りさえ見せずにひょいとソファへ土足のまま足を付く。…ああ、私のソファが。
「…兄上、何だかいつもと違います」
「何がだ?」
「いつもならもっと怒るのに……あ、名前が居ません」
「……!」
名前はどこですか?と首を傾げてそう問い掛ける弟。 …何故こういう事にはすぐ気がつくのか。その好奇心をもっと違う事に使って欲しいものだ。
「…名前は、死んだ」
「死んだ?」
「もう、帰っては来ない」
カラリ、転がす飴玉の音が止まる。途端に聞こえた噛み砕く音は、まるで私の心のようだった。
「…そうですか。じゃあ名前は星になったんですね」
「星…?」
「名前が教えてくれたんです。人は死んだら星になるのだと。だから、存在が消えても側に居られる」
「…!」
…紡がれていく言葉は、どうしてこんなにも心に染みていく。 星…か。なんとも名前らしい表現だ。
「兄上、名前は…」
「…もういい、もう…何も言うな」
言葉を繋ごうとするアマイモンを手で制し顔を覆う。 …ああ、やはり私は愚かだ。よもやアマイモンに、気づかされるなんて。
「…もう、終わりにしようか」
呟いた言葉は、やけに大きく聞こえた。
破滅へと向かう足を、止めた
2012/01/28
|
|