――あの祓魔師は美味かった。
私の目の前で血を流す悪魔は、そう言って嗤った。
「お前、最近人間を食わなかったか?」
月明かりの光が及ばない路地裏で、異臭を放つ中級悪魔に私はそう問い掛けた。
「ァ゙ア゙?テメェ同族かァ?」
「私の質問に答えろ」
「…アア、食ったぜェ?美味かったなァ、あの女。血は甘ェし、憑依しただけで身体がジンジンしやがって…ま、すぐ仲間が来やがって肉は食えなかったがなァ」
ゲラゲラと耳障りな声と言葉に沸々と怒りに似たものが私を犯す。
「そういや最後に何か言ってたなァ……「ごめんね、メフィスト」だったかァ?ギャハハハハ!」
「……!」
「面白ェだろォ?なァ…………ア?」
黒く濁った、血とは呼べない液体が夜に舞う。 ベチャッという生々しい音と共に、悪魔の叫び声が木霊した。
「ァアッア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!……テメェッ、何しやがる…!!」
「何…だと?わからないのか?」
するりと出した刀の先を原形の留めない腕に這わせて切り刻む。 グチャッという肉の切れる音に目の前の悪魔が身震いしたのがわかった。
「……ッ、お前…一体…」
「…私はただ、お前を嬲り殺しに来ただけの…悪魔だ」
ピッと刀にこびりつく汚ならしい血を払ってコツコツと近づく。ヒィ…ッ、と情けない声に無くなった腕を押さえながらキョロキョロと辺りを見回す滑稽な異物。
「…逃がすとでも、思ったか?」
「や、やめ……ギャァ゙ア゙ア゙ア゙!!」
ズブッと片足に串刺す刀。 痛みに脅え恐怖する表情は、私に何の感情も与えはしなかった。
「た、助けてくれ…!痛い…痛ぃいいい!!」
「…ああ、痛いな。だが、名前はそれ以上に苦しみを味わった。…それか?名前の胸に穴を開けた、自慢の爪は」
指に生える歪な爪。 名前の心臓を抉った、忌々しいモノ。
「た、頼む…ッ、それだけは…!」
恐怖に顔を歪めながら私の服を掴み懇願する悪魔。 …頼む?馬鹿を言うな。これはお遊戯なのだ。お前が死ぬまでという、たった少しの短いお遊戯。
「グギャァ゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッ!!」
ブチブチブチ…ッと肉と何かの剥がれる音に断末魔のような叫び声。 ああ…良い声だ。お前のその叫び声を聞く度に、私は救われる。
「…次は、何処を殺して欲しい?」
お前に選択権をやろう。 私の心を救う礼として。さあ…足、腕、背中、首、心臓、頭。 お前は何処がお好きかな?
「…ククッ、アハハハハッ」
黒ずんだ赤に身体を染めながら、私は優雅に宙を舞う。
…ああでも、どうしてか。 救われた筈なのに、頬は何かで濡れている。
「ハハハハ…」
私の心は、晴れたのに。 貴女が帰って来ないという事実は、変える事が出来ないんだ。
わかりたくない、貴女がもう居ないなんて
2012/01/06
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