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「ジャッカル、私を殺して」
「……は?」


突然の言葉に俺は持っていたパンを落としそうになった。苗字は虚ろな目を見せるとフッと笑い机に伏せるように突っ伏した。…今のかなり怖かったぞ。


「何かあったのか?」
「………昨日、図書室で柳くんと初対面したの」
「へえ、良かったな」
「……よくない」


よくないんだよおおお!バンッと机に手を付いて顔を上げたその苗字の表情に俺は食べていたパンをブバァッと吹き出した。


「ゲホッ、ゴホッ…っ、お前、顔死んでるぞ…」
「今からジャッカルに殺されるからいいよ」


あは、あはは。…これはやばい。半白目を剥きながら笑みを浮かべた苗字に冷や汗がダラダラと垂れる。つか俺に殺されるの前提なんだな。犯罪者にはなりたくねえんだが。


「話ぐらいなら聞いてやるからよ。泣くなって」
「…ジャッカルうううう」


そこからかれこれ10分、だいたいの事はわかった。つまり、昨日図書室で柳と初対面したのにもかかわらず緊張し過ぎて噛んだ…と。


「えええええ」
「なに、なんなのその「あり得ねえたったそんだけの事で死ぬとかほざいてんのかこいつ」的な目!私には死にたくなるぐらいの出来事だったんだよおお」
「(…わかんねえ)」


とりあえずごめんなと謝りながら乱れた髪を戻すように頭を撫でてやる。すんすん鼻を啜る音に苦笑して、何だかんだ慰める事にする。


「人間なんだからよ、噛むなんて当たり前の事だろ?気にすんなって」
「…う」
「それに噛んだからって印象悪くなる訳じゃないんだからよ。…柳と関わり持てただけで良かったって考えればいいんじゃないのか?」
「………」


苗字のファンクラブポリシーは変わってる。前に言ってたのを思い出しながら俺は思った。ファンクラブに入ってる奴なら大概、下心があったり、ただファンだからっつってても、心ではどっかで関わりを持ちたいって思ってる。まあちゃんと割り切ってる奴も中にはいるけど。…でも、苗字は違ってた。


「…私はただ遠目で見られたらそれで良かったんだよ」


決して近づこうとか思ってなくて、どうやら関わりを持つ事が嫌?らしい。二年の頃からの知り合いでも、苗字が何を考えてるのかなんて俺にはわからなかった。


「でもジャッカルのお蔭でちょっと楽になったよ。ありがとう」
「…おう」
「まあ完璧に黒歴史化されたけどね」
「…いい思い出だな」
「ジャッカル返事適当になってない?」


でもたまに少しだけ惜しいと思う時がある。もしこいつの存在を知って、柳が興味なんて持っちまったら…俺はどうするんだろうか。そんな事を、へらりと笑う苗字の前で静かに考えた。


「(まあ、今よりうるさくなるだろうな)」


すぐに結論は出たけど。
 

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