…なに、この巨人兵。ひくひくと引き攣る頬に自分でも笑いが込み上げてきた。のそ、と身体を揺らした巨人兵(仮)は私を視界に入れるや「だれ?」とだるそうな声でそう言った。
「や、あんたこそ誰。て言うかそこ私の特等席なんだけど」
「そんなん知らない。先ん取ったの俺だしー」
「先とかガキか」
呆れたように笑うと、それが癪に触ったのか巨人兵(仮)は横になっていた身体を起こして私を見下ろした。こ、こいつ…アホ峰より高い、だと…!?
「ほんと、なにお前。すんげーむかつく」
「そ、それこっちの台詞なんだけど。背が高いからってなんだっつーの」
「はあ?」
一段と鋭くなった目が私を射抜く。たらりと冷や汗が背中を伝うのがわかった。今更逃げられないだろうなあと内心苦笑いしつつも睨み付けるのはやめない。
お互いに睨み合うこと約数分、そろそろ疲れてきた頃にカンカンと鉄の音がして、「みょうじ?居んのか?」と青峰がひょっこりと顔を出した。
「峰ちん…?」
「青峰おっそい!何してたのあんた!」
「さつきに捕まってたんだよ。…って、紫原じゃねーか」
怪訝な顔で紫原、と呼んだ巨人兵(仮)さんを見上げると、青峰は何してんのお前と続けた。
「日向ぼっこしてただけ」
「日向ぼっこって…」
「ねー峰ちん、こいつ知り合い?」
「あー…まあそうだな」
「ねえ青峰」
「あ?」
「この巨人兵(仮)だれ」
「きょし…紫原だよ。俺と同じバスケ部の。お前知らねえのか?俺らとタメで2m越えてんのこいつぐらいだぜ?」
「……なんか、いろいろおかしいよね」
紫原くんはだるそうな目を少しだけ丸くして、ひょい、と私の顔を覗き込むように屈んだ。じろじろ、じろじろ、と品定めするように見られて軽く居心地が悪い。
「…ふーん」
「えっと、紫原、くん?」
「なにー?」
「さっきはごめんね。お詫びに青峰から貰ったぐしゃぐしゃの飴あげる」
「やんのかよ」
「……」
文句を垂れる青峰を無視してはい、と飴玉を差し出すと、無言で取られた。手でかいなあと飴を口へ運ぶまで見届けると、紫原くんはポケットを漁ってはい、と私に差し出した。
「お礼にまいう棒あげる〜。峰ちんの飴地味にうまかったし」
「あ、ありがとう。私まいう棒好きなんだよね」
「ホント〜?じゃあまたあげるよ〜」
「紫原くんかわいいね。最初巨人兵みたくて怖かったよ」
「巨人兵って俺初めて言われたし。あ、ねえねえこの後空いてる?」
「うん、空いてるけど」
「黄瀬ちんからケーキバイキングの割引券貰ったんだよね。一緒に行かないー?」
「行く。行きます」
「なまえちんノリいいねー」
「あれ何で名前知ってんの?」
「さあね〜」
「紫原くんほんとかわいいね。頭撫でたい」
「撫でて撫でて」
「よしよし」
紫原くんときゃいきゃい言いながら歩き出した私は背後で呆然と立ち尽くす青峰を本気で忘れていたなんてその時は知りもしなかったのである。
「……いい加減あいつ犯すか」
ただ悪寒がしたのは気のせいではない筈だ。とりあえず紫原くんかわいいからどうでもいい。