最初は好奇心だった。あの青峰っちがこのところ付き合いが悪くなって、部活が終わっても先に一人で帰ったりするから、ちょっと気になっただけ。緑間っちの幼なじみだという彼女とはほとんど面識はなく、ある意味これが初めての接触かもしれない。
昼休み、少し離れた彼女のクラスに出向いて教室を見渡した。
「お、いたいた。青峰っち!」
みょうじさんと青峰っちは同じクラスだ。なにやら雑談していたらしい二人は、俺の声に反応してこっちを向く。にこにこと笑顔を浮かべて近寄れば、途端に顔を歪めた青峰っちが蹴りを入れてきた。
「いって!なにすんスか青峰っちひどい!」
「うるせえ帰れ」
「何で!?」
ふつふつと伝わってくる不機嫌オーラに顔が引き攣る。すると下から「ねえ、」と女の子にしては通った声が聞こえた。
「図体でかい男二人暑苦しいんだけど。どっちか帰れ」
え、と言葉が漏れた。緑間っち曰く「口は青峰並みに悪い」との事だったが、忌々しげに顔を歪めて放たれたそれについ固まった。
「だとよ。黄瀬お前空気読め」
「私的には青峰が席に戻ればいいと思う」
「はあ?意味わかんねえ。あきらか黄瀬のが邪魔じゃねーか」
「だってあんた見た目が暑苦しいから」
「…みょうじお前そろそろいい加減にしろよ」
ぴき、と青筋を立てる青峰っちにみょうじさんは臆する事もなく鼻で笑って俺に視線を移した。意表を突かれたそれに俺は盛大に肩を揺らした。
「あはは、なにビビってんの?別に何もしないよ」
「……え、あ、いや」
さっきまでとは違う緩んだ雰囲気と女の子特有のほわっとした笑みに言葉が詰まる。かわいい、と素直に思った。
「黄瀬くんだよね?アホ峰から聞いてる」
「誰がアホ峰だてめえ」
「黙れアホ。…へー流石モデルやってるだけあるね、イケメン」
「は…はは。どーも」
隣に居る青峰っちが怖いんスけど。掴みかかりそうな勢いの彼を彼女は普通に無視して、「今度部活見に行くからさ、頑張ってね」と目を細めて笑った。とりあえず新しいダンクでも考えようかな。
「…なまえっちって面白いっスね。俺気に入っちゃった」
「えうそ、ありがとう。私も黄瀬くん好きだよ、噂に聞いてたより面白くて」
「噂?」
「背が高くてかっこよくて可愛くてバスケ上手くて何でも出来るカンペキくん」
「…はあ」
「そんなやつと話しててもつまんないじゃん」
「……」
そう言って意地悪そうな笑みを浮かべた彼女に、ああ、俺なんか敵う筈ないなと小さく笑った。
「てか青峰が空気」
「お前が勝手に無視してっからだろーが!」
「(…つーか、何だよこの二人)」
お似合いじゃん。
なんか悔しかったから、そんなこと言ってやんないけど。