「みょうじさんは、青峰くんが好きなんですか」
ずー…と啜るシェイクの音が耳を擽る。目の前に目を丸くした彼女が、どうしたのいきなり、と笑った。
「実は前から気になっていたので」
これは半分本当の事。もう半分は、早くくっつけばいいんじゃねーのという投げやりなものである。
僕は一応青峰くんを応援しているつもりだし、彼の彼なりの不器用なアプローチは端から見ていてとても面白い。が、どうにも彼女が気になるのだ。だから今日、わざわざこうやってマジバへ誘ってティータイムと洒落込んでいる訳なのである。
「黒子くんから初めてのお誘いで恋バナかあ。なんかいいね」
「僕もちょっとドキドキしてます。いいですよね、恋バナ」
「あ、黒子くん今テンション上がってんね〜」
「わかっちゃいます?」
「わかっちゃいます」
うふふ、あはは。お互いに息が合って昔の恋愛話に花が咲く。彼女とちゃんと話すのはこれが初めてだけれど、とても楽しい。話はトントン拍子に進んでいき、本来の目的を思い出す頃には既に一時間程経っていた。
「…少し、話が脱線してしまいました」
「え、そうなの?でも黒子くんの話面白いよ。そこまで影薄くて好きな子に気づいて貰えなかったのは甘ずっぱいどころか、からい青春だよ」
「今となってはいい思い出です。それよりみょうじさんの小学校の時の………みょうじさん、わざとやってないですか?」
「ん、何が?」
どうやら自覚はないらしい。彼女と話すと話の道筋が勝手に作り変えられてしまう。また違った話を振ろうと、寸前で止めた自身を褒めてあげたいくらいだ。
「僕が今日本当に聞きたかったのは、過去の恋バナではなく、現在の恋バナです」
「現在の恋バナ?」
「…始めに言いましたけど、みょうじさんは青峰くんの事は好きじゃないんですか?」
実際、僕もお節介だと思う。けれど、あの時、バスケの試合でみょうじさんに見せた彼のあの笑顔を見てしまったら、こうせざるを得ないじゃないか。青峰くんには彼女が必要なのだから。
「…何で、そう思ったの?」
「、え…」
「私が青峰の事好きなんじゃないかって、どうして思ったの?」
ふんわりと、小さく笑った彼女はそう言って、思い出すようにゆっくりと瞼を閉じた。
「この前ね、私が体調悪くて熱出た時、あいつすごい心配しててね。普段よく連んでるからすぐわかったの。私滅多に風邪とか熱とか出ないし、その日はちょうどいろいろあってさ、人恋しかったのかわかんないんだけど、何か無性に青峰意識しちゃって、恥ずかしくって。いつもならすぐに出る暴言とかも不発でさあ…困っちゃうよね」
ふふ、と笑ったみょうじさんは薄く目を開いて、だけど、と続けた。
「多分それって、熱のせいだけじゃないんだよね」
「、……」
「…あーあ。黒子くんには最初からバレてたのかな」
やっぱり隠しきれてなかったのかなあ。そう言って苦笑を漏らしたみょうじさんに、僕の心臓はどくどくと音を鳴らした。
「私は青峰が好きだよ」
決して大きな声ではないのに、僕の耳には凛とその言葉が聞こえた。そして、「最初から、ね」と意味深に付け足した彼女はにこりと笑っていた。その笑顔がとても綺麗に、僕の目には映っていた。