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食べてしまいたい、とはまさにこの事か。私の視線の先、オーダーメイドした真新しいソファの上でこくりこくりとうたた寝する名前にふつり、とそんな欲が湧いた。


「……、」


完全に思考が固まり、手に持つペンをそこら辺に放り投げて書きかけの書類を放棄する。愛らしい私の名前はどうやら完全な眠りへと入ってしまったらしい。ぎしり、と音が鳴ったにもかかわらずすやすやと寝息を立てている。


「…まったく、困った人ですねえ」


貴女も私も。なんて呟きながら頬に垂れた柔らかな髪を掬って口づける。嗅ぎ慣れた彼女の匂いが鼻腔をくすぐって、まるで甘い砂糖菓子のように甘ったるく感じる。


「甘い…な」


はあ、といやに艶めかしい溜め息を吐いて小さく苦笑する。視線を下へとずらすと、ぷくりとした赤い唇に目が行って思わず喉が鳴った。
…ああだめだ、流石にそんな事をしては紳士の肩書きを返上しなければならなくなる。触れそうになった果実に首を振り、これ以上は理性が利くまいと思ってその場を離れようと腰を上げた瞬間、きゅ、と服の裾を掴まれた。誰に、などこの場合では愚問かもしれない。


「…名前?」
「……ん、」


振り返ると、未だに寝息を立てる名前がやんわりと服の裾を握り締めているのが目に映った。…これは、私に行くなと言っているのだろうか。勝手な解釈に上げかけていた腰を落ち着かせ、抱き寄せるように名前の身体を抱く。すると満足したのか、ふにゃりと笑みを溢して私の胸へ頬を擦り寄せて来たではないか。


「…っ、(か、かわ…!)」


…なんて愛らしいのですか、名前。私は今血を吐き出しそうでしたよ。身体が自由なら壁に頭を打ち付けていたところだ。
今にも切れてしまいそうな私の理性に気づかず幸せそうに笑みを浮かべる彼女が少しばかり気に食わなくて、私は我慢する事なく柔らかな唇へと口づけてやった。可愛らしいリップ音の後、もっと、と強請る名前についに理性が切れ襲い掛かってしまったのはまた別の話である。
ああもう本当に、可愛いひとだ。



2013/02/10