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なに、なんなの。なんでこんなことになってるの。目の前でこれでもかと眉間に皺を寄せた男は、巨人兵にも劣らない身体を軽く曲げて見下すように私を睨み付けている。ついさっきまで部活であちらこちらと動き回っていた私を捕まえて、部室までやってきた彼はロッカーに投げつけるように私を放って、どん、と顔の横に手を付いた。それからというもの、無言で私を睨み付けてくる有り様。いい加減にして欲しいものだ。


「ちょっと真太郎」
「……」
「…無視すんなばか」


少しばかりイラッとしてげし、と足蹴にしてやればぴくりと眉が動いた。そして盛大に溜め息を吐いたかと思えば、端正な顔がこちらに近づいてくるではないか。え、ちょ、と後退るにも後がない私は咄嗟にぎゅ!と目を瞑る。するとまたしても盛大な溜め息が今度は耳元で聞こえた。ちょっと熱っぽいそれに、ぞく、とした。


「…今日、」
「、え?」
「やけに高尾と楽しそうに話していたな」
「高尾…?」


ああ、といらついたような声色にさっきまでの事を思い返してみる。そう言えば確かに高尾としゃべってたなあ、とか。お互い見てるドラマとかバスケの話で盛り上がったんだっけ。それがどうかしたの?と視線を送ってやると、真太郎は今日三回目ともなる溜め息を深く吐き出した。…さっきから溜め息ばっか吐きすぎ。幸せ逃げるよ(後が怖いから言わないけど)。


「……わからないのか」
「何が?」
「な…、……っ、その、だな」


珍しくしどろもどろになる真太郎にほんとどうしたんだこいつ、という意味を込めて見つめていると、じわじわと頬から耳に掛けて赤が侵食してくるではないか。…これはもしや。


「…嫉妬?」
「…!なっ、ちが、そんな筈、ないだろう…!」
「……」


あー、図星か。バッと高速で定位置に戻った真太郎は何度も眼鏡のブリッジを上げてきょろきょろそわそわとどこか落ち着かない。


「(あーもう、かわいいなあ)」


普段はつんつんの癖に、たまに見せるでれの部分の破壊力は凄まじい。
現に今、すごく、…抱き締めたい。


「…ね、しんたろ」
「……何だ」
「ぎゅってして?」
「、なっ、」
「あと、いっぱいちゅーして欲しい」
「………」


だめ?そう上目遣いで未だに私を逃がすまいとするように置かれている腕をそっと掴むと、一瞬だけ顔を歪めた真太郎が「…くそ、」と呟いて私の腕を引く。瞬間に汗と真太郎の匂いが鼻腔いっぱいに広がるものだから、ついぎゅうっと真太郎にすがり付いてしまう。そんな私にさっきまでとは似ても似つかないような優しい声で、名前、なんて呼ばれちゃって、反射的に上を見上げたら、ほら、
結局いつもみたいに、私が惚れてるんだって、知らしめられる。


(…ほんと、なんていうか、)


……好き、だなあ。

ぽろりとこぼれ落ちたその言葉に、真太郎がくすりと笑った気がした。



2013/02/10
緑間に壁ドンをやらせたかったのだよ。