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夢は玉の輿。憧れは小さな箱の中で華やぐ女のひとたちで欲しいものはお金。ぽつりぽつりと夢のまた夢な事を呟いていると、聞き手に回っていた男はこつんと拳をぶつけてきた。


「痛い」
「お前な…現実的なのいっこしかないじゃん」
「いーんですう。私だって現実逃避のひとつやふたつしたいんですよー」
「まあ玉の輿だもんな」
「笑わないでください」


げし、とへらへら笑うせんぱいの足を蹴ってやる。屋上の給水タンクの横で授業をサボってなにをやっているんだろうか、と途端現実に戻ってしまった気がしてちょっと萎えた。


「名前ちゃんさー」
「ちゃん付けきもいよせんぱい」
「きもい言うな泣くぞ」
「やだ写メ撮らなきゃ」
「誰に売る気だよ」
「せんぱいのファンに?高く売れそうかっこ笑い」
「かっこ笑いとか口で言うなよせめて笑って」


はははと空笑いしてやるとせんぱいは小さく苦笑した。ポケットに突っ込んだ手は空を切る。…撮るわけないじゃん、撮ったって売らないよ(待ち受けにはするけど)。なんて口が裂けても言えない。


「話逸れたな」
「そーですねえ」
「…まあいいんだけどさ」


んーとかあーとか唸りながらがしがしと意外にもさらさらな髪の毛を掻くせんぱいはあっちこっちに視線を彷徨わせている。鋭い目は今じゃちょっとだけ頼りなくも見える。…かわいいなあ、口から滑りそうになった言葉を手で掬った。


「あー…その、さ」
「…ねーせんぱい」
「、なに?」
「私ほんとのところ玉の輿とかどーでもいいんですよ」
「…は?」
「夢とか憧れとか、あれ全部うそなんです。あでも、お金欲しいのはほんとかな」
「名前?」
「…まあ、だからあれですよ、せんぱいが居ればそれでいいと言うか………ああ、もう!」


とりあえず、お誕生日おめでとうございます。
脈絡なんて欠片もない伝え方に、せんぱいは切れ長な目をこれでもかと丸くさせた後、くしゃりと笑って広い胸に私を収めた。


「俺、名前のそーゆうとこ好きだわ。……玉の輿なら、俺がさせてやるよ」
「…ほんと、ですか?」


冗談で言ったのに、私本気にしちゃうよ?だけどそれなら私が言ったみっつは全部、ほんとになっちゃうね。
そんな事を言うにはまだ呼吸がうまく出来なくて、私は小さくありがとうと呟いた。



生まれてきてくれて、ありがとう」



2012/08/11 (08/14)
2013/02/10
しゅうへいくんはぴば。