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好きなひとが出来た。
ついぽろりと溢れてしまった言葉に、これ程自分を呪ったことはない。目の前でマジかマジかとにやつくこの阿呆を今すぐにでも殴り付けてやりたいが、我慢する事にする。


「で、誰よ。真ちゃんの運命の女の子は!」
「黙れ高尾」


ああやはりこいつの前だけでは言うんじゃなかった。と自責の念に駆られるが、色恋に関してはこの男が一番適しているだろうと震える拳を押さえる。


「いーじゃんよー。んで、誰?ちょー気になる」
「………苗字」
「は?」

「だから、苗字名前だ!」


しん、と静まり返った周りにハッとして眼鏡のブリッジを上げる。先輩の額に青筋が見えた気がするが、見ていないふりを決め込んだ。


「ぶはっ!真ちゃんかわいーのな!…へー、苗字ってあの女バスのコだっけ?真ちゃんも隅に置けないねえ」
「茶化すな。というか何故お前が知っているのだよ」
「いや苗字ちゃんってモテんじゃん?よく告白されてるとこ見るし」
「…なんだと」


ふつり、と沸き立った苛立ちに目の前の高尾がベタぼれかよ!と笑いだしたので一発殴っておいた。…ふむ、と一人考え込んでいると、どこからか「緑間くんいますかー?」と甲高い声が………?


「あ、噂をすれば」


頭を押さえながらにやにやと笑みを浮かべる高尾を無視して声のした方へ目をやれば、苗字がこちらへ走り寄ってくるのがわかる。途端に騒ぎ出した心臓を押さえつけるが、そんなものは意味もなく、いつの間にか目の前まで来ていた苗字がにこりと笑みを漏らした。


「テーピング、ありがとう。お蔭で助かりました!」
「…あ、ああ」
「お礼にクッキー作ってきたんだけど、緑間くん甘いの平気?」
「苦手では、ない」
「良かった!」


はい、と差し出された綺麗にラッピングの施されたそれを受け取ると、「じゃあお互い練習頑張ろうね!」と手を振って彼女は走って行った。


「…いつの間にんな仲良くなったんだよ」


隣に居たらしい高尾がジト目に聞いてくるが、鼻で笑ってやった。お前に言う必要は小指の垢程もない、という意味を込めて。


「…へえ?」


どうやらその反応が癪に障ったのか、突然苗字から貰ったクッキーの包みを奪った高尾はあろうことか俺より先にクッキーを口に放り込んだのだ。ゆっくりと見せつけるように咀嚼し飲み込んだそれを「うっわうんめー苗字ちゃん料理うめーんだな」と一人呟くこの男の顔面目掛け俺のテーピングが火を噴いたのは言うまでもない。
とりあえず高尾お前ほんとふざけるなよ。



2012/08/04
2013/02/10 加筆