名前のこと、もっともっと教えてください。 その表情からは何を思っているのかまったくわからないから、この言葉の真意は如何なるものか。と私は首を捻る。恋人同士というワードで括ってしまってもいいのかわからない私たちの歪な関係は、端から見ればおかしいものなのかもしれない。 「アマイモン」 「ハイ」 「私の何を知りたいの?」 と言っても、もう長く一緒に居るのだから逆に知らない事の方が少ないと思うのだけれど。そんな事を考えていると、目の前に座っていたアマイモンは無表情だった顔ににんまりと笑みを携えて、ひょい、と私の隣に飛ぶように近寄ってきた。 「名前の味が知りたいです」 「……私の味?」 いやな予感がする。直感的にそう感じ取った私は、限りあるソファを尻目にゆっくりと後退った。が、その行動がいけなかったのか、アマイモンは私の下半身を跨いでソファに押し倒すように手を付いた。 「逃げるなんて許さないですよ」 「………」 まっすぐに見つめてくるその目には、少なからずギラギラと光るものが見える。それにほんの少しだけどきりとしたのは、内緒だ。 「名前は、いつもイイ匂いがします」 くんくんと首筋に埋まって匂いを嗅ぐアマイモンの髪が当たって擽ったい。 「……っ、ひっ!?」 与えられる擽ったさに身を捩っていると、耳元で直接聞こえた水音と、生暖かい感覚に背筋が震えた。 「ちょ、アマイモンなにし…!」 「んちゅ…名前の肌はオイシイです。名前の味がする」 「や、そうじゃなくて…っ」 ようやく耳元から離された唇に安堵するも、唾液に濡れたであろう耳が外気にあてられて変な感じがする。心なしか嬉々とした表情を見せるアマイモンは、顔を近づけて唇を合わせてきた。悪魔だからなのか、ひんやりとする唇に少し肩が跳ねる。 「ん、ふ…っ」 「ちゅ…ん、(……甘い)」 徐々に舌を絡ませて、歯列を執拗に舐め回しながら舌を甘噛みされる。…どこでこんな知識身につけてきたの。子どもが大人になってしまった気がして少しだけ悲しいような切ないような気持ちになる。 「んん、……っ、は…」 「ん、」 漸く離れた唇から繋がる糸に身体が熱くなる。名前、と私の名前を呼びながら唇に滴る唾液を舐めとる姿がどうしてこんなに妖艶なのか。どうやら自分の知らないところで随分と大人になってしまったらしい。 「名前、名前」 「ん…?」 「ボクは名前が好きです」 「…うん」 「名前は、ボクの事が好きですか?」 さっきまで獣みたいな目をしていたくせに、どうしてこんなにも頼りなさそうな目をしているの。そんなギャップがかわいくてくすくす笑っていると、きょとんとしている表情が目に入って、かわいいなあなんて思ってしまう。 「好きだよ」 アマイモンが思っているのと、私が思っているのが同じものかはわからないけれど。少しだけ、私たちの関係は歪じゃなくなりそうだ。 「……お前達、何をしてるんですか」 鼓膜に直接響いた声に苦笑いを漏らしながら、さてどう言い訳をしようかと思考を巡らせる。ふと見えた目の前の彼は、今まで見たこともないくらいに嬉しそうな顔をしていた。 ----- あやのさまからのリクエストでした。 微裏があまり生かしきれてないですが、おきに召していただけると嬉しいです。 では、リクエストありがとうございました! 2013/03/04 |