一周年企画 | ナノ
それでもやっぱり君が好き


仕事と私、どっちが大事なの。なんてベタな事は言わない。

でも、

彼女と私、どっちが大事?

そう聞いたらあなたはきっと、答えをくれない。



『あ…恋次!お昼一緒に食べよ?』

「悪ィなまえ、ちょっと行くとこあるからよ」



また今度な、そう手を上げて恋次は赤い髪を靡かせながら走って行く。



『……また今度…か』



その言葉を、もう何回聞いたんだろう。最近じゃあ恋人同士っていう名前も、ただの肩書きにしか思えない。



『恋次の…ばーか』



ポツリ、そう呟いた。

少し前に恋次が一人の女の子と楽しそうに話してたのを見たことがある。

ある意味で有名な女の子。朽木ルキアさんだった。

恋次は同じ流魂街出身の大事な仲間だと言っていたけど。

私には到底、「仲間」には思えなかった。

彼女を見る眼差しは、どこか優しかったから。私には入れない絆があるんだと、初めて知った。
彼女と対等になる為に副隊長まで登り詰めたとも聞いたから。きっと好きだったんじゃなかったのかなって…考えたくない事まで考えてしまう。



『もうすぐ一年なんだけどな…』



恋次と付き合って一年。…きっと恋次は忘れてるだろうけど。



『はぁ…』

「溜め息ばっか吐いてっと幸せ逃げるぞ?」



後ろからの聞き慣れた声に、私はまた溜め息を吐いた。



『…修兵』

「辛気臭え顔してんなー。何だ、阿散井と別れたか?」



このニヤニヤした顔面を殴り飛ばしたい。



『別れてないよ。でも…』

「でも?」

『こんな女、恋次は嫌いになるかもね』



幼少から見慣れた修兵の顔が少しだけ歪んだ。



「なんか…あったのか?」

『…んーん。ただね、自分がこんなにも嫉妬深いなんて思わなかったから』



惚れた弱みなのかな…楽しそうに話してる二人を見る度、胸が抉られたように痛い。



「……」

『…ちょっと、そんな顔しないでよ。まぁ…別れたら修兵に泣き付くから、その時はよろしくね?』



クスリと笑って修兵の頬を突ついてやった。



「……ああ、いつでも来いよ」



ポンと頭を撫でられて、ほんの一瞬…泣きそうになった。



『……ん、ありがと』





修兵と別れて隊舎へ戻ると、あからさまに不機嫌な恋次が私を睨み付けるように立っていた。



『…恋次?どうかしたの?』



ゆっくりと近付いて頬に触れようとした瞬間、その手を思い切り払われた。
静かな部屋に渇いた音が響く。払われた手がジンジンと痛い。



『え…』

「お前さっき何してた」

『さっ、き?』



ああ、と頷く恋次の声は嫌に低くて冷たい。



「…檜佐木さんと話してただろ」

『あ…』



まさか、見られてたの…?



『恋次!修兵は「へェ…名前で呼び合う仲だったんだな、お前ら」…っ』



軽蔑したような目。一年も一緒に居たんだもん。これが嫉妬だって事ぐらいわかる。



『だから違うって…』

「最近俺がお前と一緒に居ねえからって寂しくなったのか?だから檜佐木さんに慰めて貰ったのか?」

『ち、ちが…っ』

「だったら別れようぜ。俺より檜佐木さんの方がいいだろ?」

『…!』



そう吐き捨てた恋次の言葉は、今の私にはすごく…痛かった。
懐から小さな袋を取り出して思い切り恋次に投げつける。



「ってえ!何す……なまえ?お前何泣いて…」



ポタリと床に落ちる涙に驚いたのか恋次はソッと私の肩を掴む。それを恋次がしたように、私は払い除けた。



『……私が、何とも思わなかったと思う?』

「は…」

『私が!恋次と朽木さんを見る度にどんな気持ちだったかわかる!?』



俯きがちになっていた顔を上げてキッと恋次を睨み上げる。



『私よりも朽木さんを選んだ時、私がどんなに辛くて悲しかったか、恋次にはわからないでしょ!』

「お前、何言って…」

『何言ってるかわからない…!?なら、私と朽木さん…どっちが大事なの?』

「な…っ、ンなの決められる訳ねえだろ!」



……ほら、やっぱりそうなんじゃない。



『だったら明日、何の日か覚えてる…?』

「…明日?………あ、」

『お、覚えてるの?』



一瞬過った答えに胸が高鳴る。…でも、



「確か…行き付けの鯛焼き屋が半額だったな」



悪気もなくヘラリと笑う恋次の頬に、私は平手打ちを贈った。



「いってェエエエ!!な、何しやがる!」

『…恋次なんか嫌い』

「は?」

『恋次なんか、だいっきらい』

「ちょ…嘘だろ?」



真っ赤になった頬を擦りながら近付いて来る恋次。



『もういい。私修兵のとこ行くから』

「な…!」

『…修兵に靡いちゃうから』



手で涙の筋を拭って、私は隊舎を飛び出した。





「なまえ!……何なんだよ一体…」



俺が悪いってのか?
…お前が楽しそうに檜佐木さんと話してたんじゃねえか。つかルキアは仲間だって言ったじゃねえかよ…

ハァ、と溜め息を吐いてしゃがみこむ。カサリと音がして不意に床を見れば、なまえが俺に向かって投げつけた手のひらサイズの袋があった。



「…何だこれ」



綺麗にラッピングされたそれを開けてみる。そこには一枚のメッセージカードと朱色の髪結い紐が入っていた。



「こいつは…」



そういや前に新しい結い紐が欲しいって言ったっけな…

紐を手に取ってペラリとカードを開く。



「……マジかよ」



そこには「付き合って一年」と書かれていた。



「あー…バカだな俺ァ…」



ガシガシと頭を無造作に掻いて、朱色の紐を長年結んできた紐と結び替える。カードを机に置いて、愛しい女の後を追った。



きっと其処に居るだろうと決め込んだ場所へ全速力で走る。

見慣れた背中が視界に入って、走る勢いのままその背中を抱き締めた。



『…!』



ビクリと肩が跳ねて逃げ出そうともがくなまえの身体を押さえ付ける。抵抗する気力がなくなったのか、諦めたように膝の中へ顔を埋めた。



「なまえ…」



…こういう時ってなんて言やいいんだ?
言い訳か?謝りゃいい?あー…わかんねえ。
でもよ、俺はやっぱりお前が…



「……好きだ」

『!』



ピクリと身体が動く。抱き締める力を強くして、耳元へと唇を寄せた。



「悪ィ…言い訳なんざ出来ねえし、俺はルキアとお前を比べる事も出来ねえ」

『……』

「…記念日もうろ覚えで酷ェ事も言った。別れるってのも嘘だ」



…ダセェな、檜佐木さんに嫉妬しちまったんだよ。

フッと自嘲気味に笑う。俺がこんなになっちまうんだ。お前がルキアに嫉妬した気持ちも、俺と同じだったんだな。



「俺はまだ女心っつーのはわかんねえけどよ、…もうお前を泣かせたりしねえから」



ごめんな。

きゅ、となまえの身体を抱き寄せる。



『……れん、じ』



か細い声が聞こえてゆっくりと身体が離れる。



「…なまえ」



ごめんなと謝ろうとした瞬間、さっき叩かれた方とは逆の頬を小さく叩かれた。痛くない右頬に驚きながらもなまえを見れば、



『…これで、許してあげる』



泣き腫らした顔でヘラリと笑ってそう言った。



「…っ」



胸の動悸が激しくなる。熱くなる顔を見られたくなくて、向き合ったなまえの身体を痛くなる程抱き締めた。



『恋次…?』

「…お前、あんま可愛いこと言うんじゃねえよ」

『…?』



ソッと身体を離して、柔らかい頬に手を添える。そしてそのままなまえの唇に俺のそれを押し当てた。



「俺ァ自分が思ってるよりも…お前に惚れてるみてえだ」



ニカッと歯を見せて笑むと、なまえは目を見開いて俺の死覇装を掴む。
クイッと袖を引かれて、なまえの唇が俺のそれに重なる。



「…!え、おま…」

『恋次…顔真っ赤、だね』



照れたようにヘラリと笑うなまえに、また胸がドクンと高鳴った。
ああ…やっぱ俺はこいつには敵わねえな…

そんな心情を知られたくなくて、口元に余裕な笑みを浮かべながら…なまえの肩を抱き寄せた。







『恋次知らなかったっけ?私と修兵は幼なじみなんだよ?』

「…知ってるも何も…聞いてねえんだけど」

『だって言ってないもん。…で、私の気持ちはわかった?副隊長サマ』

「ぐ…!」



ヘラリ、勝ち誇った笑みを浮かべるなまえに、…今日は寝かせてやらねえと密かに思った。







名無しさまからのリクエストでした!
企画にご参加くださりありがとうございました!



2011/07/18
2012/03/31 加筆

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