捧げ物 | ナノ



「なまえ殿!」



此処は奥州。蒼で染まるこの地に紅の声が木霊する。



『あ…幸村!』



本来敵対している奥州と甲斐。でも今は同盟を組んでいる為馴れ合いじゃないけど、親睦を深めている。



「その…だ、団子を食べに行かぬか?」

『え、私と?…いいの?私で』



現にこの紅の男、幸村も敵対する事なく話し掛けてくれる。



「なまえ殿でいいのではない。…なまえ殿がいいのでござる」

『…!!ありがとう…じゃあ行こっか!美味しい甘味屋さんがあるの!』



私は奥州伊達軍の武将。幼少の頃から伊達に仕え、筆頭である政宗の遊び相手をしていた為顔も広い。過保護な男二人が居てあまり戦に赴けないけど、甲斐と同盟を組んで以来幸村とも仲良くなった。
いつかは敵になるのに…とも思ったけど、みんなが笑っていられるからいいか!なんて、私は甘いのかな。



「奥州のずんだ餅と言うものは誠に美味でござるな!」

『気に入って貰えた?奥州のお袋の味だよー』



ばくばくと餅を頬張る幸村は可愛い、すごく。あ、喉に詰まらせた。



「む…ぐぐ…ぅ…」

『ゆ、幸村!お茶、お茶飲んで!』



はい、とお茶を手渡して背中をさする。



「ぐ…す、すまぬ…なまえど…」

『…?幸村?』



肩から覗き込んでいた私と顔を合わせようと思ったのか、少し首を動かすと顔との距離が縮まる。と同時に幸村の顔が真っ赤に。しかも耳まで。



「は、は、破廉恥でござるぅううぁああああ!!」

『えっ、ちょ…っ』



馬鹿でかい声で叫ぶと、幸村はものすごい速さで走り去ってしまった。



『え…』



私は呆然とその場に立ち尽くすしか出来なかった。







トボトボと帰路を歩く。



『私、何かしたかな…』



さっきの事を考えて歩いていれば、目の前に紅。幸村が居た。



『幸村…』



私に気付いたのか、すまなそうな表情で此方へ近付いて来る。



「なまえ殿…申し訳ござらん…」

『え…?気にしてないよ。でも…私、何かした?』



私がそう言えば幸村の顔は赤く染まる、それは傾く夕日の所為なのか。



「なまえ殿は何も悪くなどないでござる!ただ…」

『ただ…?』



俯きがちになっていた顔を上げた幸村は、可愛くなんてない。「男」の表情をしていた。



「なまえ殿…某は…そなたが「なまえ!!」ま、政宗殿!?」



狙ったのか、幸村の言葉を阻むように馬を駆ける政宗が。



「ったく探したぜ?……なまえが世話になったなァ、真田」

「い、いや……」



ニヤリと嫌な笑みを浮かべる政宗とは対称的に幸村の目は泳ぎまくっていた。



『幸村、さっき何て言おうとしたの?』

「な、何でもないでござる!……今日は楽しかったでござるよ」



なまえ殿、と言う幸村は微笑んでいて、少しどきっと胸が跳ねる。



『私も楽しかったよ。ありがとうね、幸村』



ソッと微笑むと幸村はボンッと顔を赤くして「ぅお館さぶぁあああああ!!」と叫びながら彼方へと走って行った。



「Crazyな奴だな…まあいい。帰るぜなまえ」

『…うん』



幸村がとても幸せそうな顔をしていたのを、私は知らない。







「Hey.なまえ」



ある日、何色にも染まらない蒼が私に着物を押し付けて来た。



『…………嫌がらせ?』



伊達軍に居る間は女じゃない。普段は袴を着て過ごしている。…別に城下に居る町娘が羨ましい訳じゃない。



「ンな訳ねェだろ。…今から俺に付き合え」



だから着物を持って来たのね…



『……』



私は無言で着物を取った。政宗はふ、と笑うと部屋から去って行く。



「…ったく素直じゃねェな」







『……』



着替えて政宗の元へ行けば、目を見開いて私を見る。



『…似合わないならそう言えばいいじゃない』



本当に久しぶりに着たんだし…元々男っぽいから似合わないよ…



「Sorry…違ェンだ。…綺麗でつい見入っちまってよ」

『え…?』



驚く私に政宗は私の手を取り、徐に甲へと口付けた。



『な、な、なっ!』

「綺麗だぜ?俺のprincess…」



…俺の、何?
赤くなる顔を隠しながら疑問に思っていれば、政宗は私の腕を引いて馬に乗り出す。
いつの間にか私は横抱きにされていて…



「HA!!」

『え、ちょっ…きゃぁあああああ!!』



愛馬は颯爽と駆け抜けたのであった。







「着いたぜ」

『…こ、殺す気!?』



ぜぇぜぇと息を吐きながらキッと政宗を睨み付ければ、しょうがねェなと言わんばかりに溜め息を吐かれた。あんたの所為なのに!大体何で手綱持たないの?もう絶対政宗とは乗らないんだから!



「拗ねンなって。……見てみろよ」



クイッと顎を向けて私に何かを見るように促す。



『え…?…………わぁ…!』



辺りを見渡すと、奥州が一望出来ていて。周りに桜が咲き誇っている。
どうやら少し高い丘のようで、私の不機嫌さはいつの間にか消え去っていた。



「…すげェだろ?お前に見せたくて連れて来たンだぜ?」

『…ありがとう。すごく、すごく綺麗…奥州ってこんなにも綺麗だったんだ…』



自然と頬が緩む。政宗が守って来た国が、こんなにも澄んでいた事が…すごく嬉しくて。



「…ああ。俺にとっちゃこの景色に負けねェぐらい、お前も綺麗だがな」

『…褒めすぎ。お世辞なんか言ったって何も出な「世辞じゃねェよ」…え?』



不意に政宗の方を見れば、とても真剣な表情で…私の腕を引いたかと思えば、右手が頬に添えられた。



「…俺は世辞で言った事なんざ一度もねェよ。俺のこの目には、お前は綺麗に映ってる」

『…ま、さむね…』



時が止まったかのようで、胸の動悸が激しくて。政宗から目を離す事が出来なかった、







「…そろそろ帰るか」

『う、うん……』



どのくらい経ったかわからない。政宗の言葉で正気に戻った私は、政宗が引く腕に頬の熱を感じながら馬へと跨った。

政宗もさっきの事で学習したようで、次はちゃんと手綱を持ってくれて私達は無事に帰る事が出来た。……んだけど。



「政宗殿ぉおおお!!酷いでござるよ!なまえ殿は某とで、でぇとの筈でござるのに!」

「Ah〜?ンな事言ったか?」



いつの間にか居座っていた幸村が政宗に食いかかって言い争いを始めたのだ。



「約束を破るとは言語道断!いざ尋常に勝負!!」

「HA!かかって来いよ。なまえは俺のモンだって事を教えてやる。…Let's party!!」



ドカーンッ!ガシャーンッ!



「「うぉおおおおお!!」」



後で知った事、どうやら二人は勝負して勝った方が私と一日を過ごしていいという賭けをしていたらしい。



『……私は景品なの?』



こんな二人にどきどきしたなんて…



「なまえ、何してンだ?」

『あ、小十郎。丁度良かった、私とでぇとしない?』

「あ?」

『行こ!』



紅と蒼が攻防戦を繰り広げている中、私は小十郎の腕を引いてその場を後にしたのだった。
(まったく…景品じゃなくて正直に伝えて欲しいのに)



なんて、言ってやんないけど。







亜也佳さまからのリクエストでした!
政宗&幸村のとにかく甘になって…ないな、何だこれ…
最後しか取り合ってないですね…汗

こんなものでよければいつでも書き直しますので!
では、リクエストありがとうございました!



2012/03/24 加筆



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