捧げ物 | ナノ



愛しています、 政宗様。例えあなたが私以外の方を想っていても、私はあなただけを…



「愛してる」



そう言ってくれたのはいつだったか。



「お前以外には何もいらねェ…」



私だけにそう囁いてくれたのは、もうずいぶんと前。
今でもあなたは私を想ってくれていますか…?



『政宗様…どちらに行かれるのですか?』

「なまえか…ちょっと外にな」

『では私も「いや、俺一人でいい」…はい、お気を付けて』



政宗様は私の頭をひと撫でして行ってしまった。

もう何度目だろうか。こうやってはぐらかされて切なさで胸が軋むのは。

私と政宗様は一年程前に祝言を挙げ、正式な夫婦となった。私の位は正室、政宗様の妻。
普通…たくさんの側室を迎え、国の繁栄の為にたくさんのお子を作らなければならない。でも、政宗様は…「側室なんざいらねェ。俺の妻はなまえだけだyou see?」と皆の居る前で堂々と宣言して下さった。…嬉しかった 、とても。
私以外の方に触れて欲しくない。甘い言葉を囁いて欲しくなかったから。
まるで私の心を見透かしていたように笑む政宗様を、誰のものにもしたくなかったから。
醜い嫉妬、私には口添えするなんて生意気な事出来ないから。

本当に嬉しかった。私だけを見てくれて、私だけを愛してくれたから。
私には返す事が出来なかったけれど…幸せだった。

そんな政宗様が変わられたのはひと月程前。不意に外へ出た時…



「…愛してるぜ」

『…!!』



楽しそうに笑う政宗様の声と、甲高い女特有の声。一瞬で、目の前が真っ暗になった。



(まさか…側、室…?いや、そんな筈は…でも…)



私に、飽きてしまったの?不安で不安でたまらなかった。それから三日と空けずに外へ出るようになってしまった政宗様。悲しくて、悔しくて何度も泣いた。でも、私にも何か駄目な所があったんだと、必死で考えて直そうとした。それでも政宗様は出て行く事を止めなくて…
辛い、怖い。
いつかお前なんかいらないと言われそうで。



『……っ』



そう思うと自然に涙が出る。しょうがないの、側室なんて当たり前なんだから。
そう自分に言い聞かせても流れ落ちる涙は止まらなかった。
ああ、さっきまで乗せられていた手の温もりが消えて行く。



『ま、さむね…様…っ』



「………なまえ様?」



低くてしっかりとした声。肩が、一瞬飛び跳ねた。



『…こ、じゅろ…』



背を向けているから小十郎の表情はわからない。早く、早く。どうか気付かずに行って欲しい。面倒な女だと思われたくないから…



「…泣いて、居られるのですか…?」

『……っ』



私は答えない いや、答えられない。気を緩めてしまったら、流れ続けるこの涙をせき止められないから。
ザッザッと足袋が畳を擦る音が近付いて来る。



「なまえ様……」



ずっと我慢していたの。夜になっては一人で泣いて、誰にも気付かれずに笑いたくない顔を作って。
でも、



『…っ、こ、じゅろ…!』



頬を這う涙を気にせずに小十郎の名を呼べば、小十郎は私の手を取りそのまま広い胸へと私を収めた。



『こ、こじゅ「存じておりました。あなた様が泣いて居られた事を…」…え?』



未だに表情が伺えない小十郎の口からはいつもと違う悲痛な声が響く。



「…政宗様の事でしょう」

『……!!』



図星だった。
悔しい…誰にも気付かれてないと思ったのに…



「…あなたはご自分を隠すのが上手ではない。泣き腫らした顔で無理に笑っていればわかります」



駄目ね、私は…上手く隠す事も出来ないなんて。



「…政宗様とあなた様の事に口出しなど出来ませんが…どうか、政宗様を信じて差し上げて下さい」

『小十郎…』

「ご自分を責めないで下さい。この小十郎、あなた様の味方でございます。どうか…」



ゆっくりと身体を離され見上げれば、小十郎は微笑んでいて。



『…ありがとう小十郎』



私はソッと彼の手を取った。



「…!も、申し訳ありません!俺は一体何を…」

『そんな気にしないで、嬉しかったか「何してンだ?」…ま、政宗様…』



すぐさま握る小十郎の手を離せば、腕を組む政宗様の目が更に鋭くなった。



「…なまえ、来い」



いつもより数段低い声が頭に響く。私は言われるがままゆっくりと政宗様の元へと歩む。



「……」



政宗様は無言のまま私の腕を引いた。



『…きゃっ』



その瞬間、私は政宗様に抱きかかえられていた。そのままスタスタと歩き出す政宗様は小十郎に鋭い視線を向けると、チラリと一瞬私を見てから視線を前へと戻してしまった。

ズキン…胸が痛くて不意に顔を俯かせる。



「…Hey.なまえ」



上から降って来た言葉に顔を上げればいつの間にか部屋に着いていた。ストン、と下へ降ろされ壁に追いやられてしまう。



「…堂々と浮気たァ、お前もやるようになったな」

『え…』



浮気…? まさかさっきの…



『ち、違います!』

「HA!どうだかなァ…手なんざ握り締め合ってよ」



どうして…違うのに…



『…小十郎は、ただ私を心配してくれただけです。それ以外には何もありません』



そう言うとまるでまだ疑っているかのような目を私に向ける。ただでさえあなたがわからないのに…どうして…
その目を見れば我慢なんて出来なかった。



『政宗様こそ…もう私に飽きられたのでしょう…?』

「Ah?何言って…」

『私よりも!…いつも外へ逢瀬に行く、想い人の方がよいのでしょう?』



辛いの、もう苦しいの。
ずっと心に留めてた…



『面倒な女だと、思われたくなくて…でも、苦しくて…見送る時も、心が嫉妬に駆られて…っ』



ああ、零れ落ちる。想いも、涙も全て。



『あ、きたなら、言って下さい…いらないなら、優しくしないで…っ!?』



目を凝らせば、広がるのは広い胸の中。



「Sorry…」



すまなそうな声と共に腕の力が強まる。太く力強い腕に、私は抱き締められていた。



「…お前に、心細い思いさせちまったな…」

『ま、さむね…様…』



やっぱりこの人の胸の中は安心する。
私はまるで全てを吐き出すように泣いた。







『も、申し訳ありません…』



やっと涙が止まり、身体を離すと羞恥に駆られる。私は何て事を…



「気にすンな。元は俺が悪ィンだからよ。…それと、お前も誤解してるぜ?」

『え…?』



付いて来いと促され、政宗様の後に続いて歩く。



「目、瞑ってろ」



言われるがまま目を瞑ると、政宗様はゆっくり私の手を引いて行く。



「…いいぜ」



その言葉と同時に目を開くと、そこには色とりどりの花が咲き誇っていた。



『……綺麗』



見た事がある。この花も、あの花も。
聞いた事がある。今ここにある花は全部…



『……愛の花』

「…ああ。お前の為に育てたンだぜ?」

『え…っ』



花から視線を戻せば、政宗様が微笑んでいて。



「知ってるか?…祝言挙げてから今日で一年なんだぜ?この為にひと月も前から準備してたンだ。surpriseでな」

『あ……』



ひと月前…って…



『ではあの時私が聞いた「愛してる」は…』

「…!マジかよ…じゃあ一緒に居た女の声も…」



私はゆっくりと頷いた。すると政宗様の頬がほんのり赤く染まる。



「…ありゃあお前の事だ。どうやってお前を落としたのか聞かれてよ…つい言っちまっただけだ。それにその女はただの町娘だ。少し面識があるぐらいで別になんともねェよ」



そんな…全部勘違いだったなんて…



『あ…私…』

「気にすンな。俺も悪ィしな…それに、お前がンな風に思ってただけで俺は嬉しいぜ?」



グイ、と腕を引かれポスンと抱き締められる。私はソッと広い背中に腕を回した。



「…愛してる、なまえ」

『…私も愛しています』



周りはたくさんの花が咲き乱れていて、その中に居る私達は、まるで一輪の花のように。一枚一枚の花びらが、私に愛を囁いているようで…とても幸せだった。







「さて、と…なまえ。仕置きしねェとなァ」



ゾワリ、悪寒が走る。



『え…?政、宗様?』

「心配するだけで普通抱き締められねェだろ?」

『え…ぁ…ぅ…』

「今日は寝かせねェぜ…you see?」






桜夜さまからのリクエストでした!
初めての正室設定だったんですが、大丈夫でしたかね…汗
切甘になっているかわからないですけど…文もおかしいし…orz

書き直し承りますので、お気軽にどうぞ!
では、リクエストありがとうございました!



2012/03/24 加筆



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