捧げ物 | ナノ



『黒崎先輩っ!』



甲高い声が響く。
タッタッタと駆ける音が近付いて、俺のすぐ後ろで止まった。それと同時に俺は振り返る。



「なまえ」

『ひ、酷いじゃないですか!何で、先に…っ』



はぁはぁと息を肩でするなまえに少し笑うと、顔を真っ赤にしたなまえがポカポカと俺を叩いた。



「悪ィ、忘れてた」

『な…っ!…もういいです。慣れっこなんだから』



フイッと顔を背けるなまえ。……拗ねたな。



「冗談だって。今日一年は終わるの遅かっただろ?だから暇つぶしにブラブラしてたんだよ」

『……時間忘れるまで?』

「…時計持ってなかった」



だから腹時計が頼りだったんだよ、と言うとクスクスとおかしそうに笑う。



『しょうがないですね、可愛い先輩に免じて許してあげます!』

「…てめっ」



あははと笑いながら道を駆ける。…案外嫌いじゃない。つか俺…キャラ保ってるよな?

初めて出来た年下の彼女。
死神の力もなくなって、やっと戻って来た日常。

二年に上がって後輩になった一年のなまえに、一目惚れだった。
色恋沙汰に疎い俺が、って自分でも思うけど…言えば、どうしたらいいのかわからない。
ただ、彼奴の中にある俺のキャラってやつを壊さねえように毎日が必死。がっついてねぇように見える為にスカした顔も態度もしてる。あー…俺マジで大丈夫か?



『黒崎先輩?』



俺の背が高いからかなまえの背が低いからなのか、必然的に俺を見上げるなまえは上目遣いになる。



「…っ、何でも、ねぇ…」

『…?』



はっきり言って、かなりキツい。
今だってなまえの肩に回そうとしてる右手は宙に彷徨ってる。笑みを浮かべて話すなまえはその存在に気付いていない。



ソッと右手を肩に添えて俺の方へと引き寄せた。



『え…せん、ぱい…?』

「……」



視線を右へ左へと泳がす俺に、なまえは何も言わず寄り添う。



『…先輩、可愛いですね』

「……可愛くねぇ」

『…ふふ、可愛い』



頬を染めるなまえに、俺の顔もこんな色をしてるんだろうなと密かに思った。



…本当は、昼休みに一年の教室を通った。丁度目の前になまえのクラスがあったから、興味本位で軽く覗いたんだ。そしたらなまえが数人の女子に囲まれてて。



「ねぇ、黒崎先輩とどうなの?」



そう、聞こえてきた。
別に盗み聞くつもりじゃなかったが、そりゃなまえが俺の事をどう思ってんのかも聞けるんじゃねえかって、思うだろ。



『え?どう、って…』

「ゴーインなの?やっぱり。それともクール?」

「手とか繋いだ?デートとか!」

「キスとかもうした?ね、どう?」

『…え、と』



少し困っているなまえに俺は脱力。そりゃそうだ。言ってる事が全部真逆なんだから。それを代弁するように、なまえはそう言った。



『手は繋いだ事ないよ?き、キスとかまったく!強引とかクールっていうか……可愛い感じ?』



その瞬間「ぇえっ!」と聞こえて。



「なまえはそんなんで満足なの!?」

「黒崎先輩が可愛いとか似合わない…」

「手も繋ぎたいし、キスもしたいのが女じゃない!」

『う、うん…』



すごい形相で言う女子に、なまえは苦笑い。その後数分に渡っていろいろ言われたなまえは最後に、



『…少しは強引にして欲しいな』



と、頬を赤く染めて呟いていた。



「……」



そう言われたら男の俺は黙ってられねえ。どうするかと考えて短い時間の中、策を練っていたのだ。



『どうしたんですか?ぼぅっとして』

「…ん?いや、何でもねえよ」



風が髪を靡かせる。サラッと柔らかななまえの髪から心地の良い香りが俺を支配する。



『黒崎先ぱ「一護」…え?』

「名前で呼べよ。苗字呼びで先輩って他人行儀だろ?」



な、と顔を下へ向ければ俺を見上げるなまえと目が合って、



『…い、一護…先、輩…』



と、か細く聞こえた。



「ん、上出来」



くしゃりと髪を撫でればと擽ったそうに身を捩る。



『い、一護先輩…今日はなんかいつもと違いますね』

「そうか?」

『だ、だって…肩もだし、名前だって…』



俯きがちになる顔。覗く頬が赤いのは自惚れてもいいんだろ?



「いや、俺も自分を偽るのはよくねえかなってさ」

『え?い、偽るって…』

「だってそうだろ?てめえの女に言わせる男っつーのは、俺の性格に合わないんだよ」



さらりと流れる髪に、俺の指を絡める。



「なまえ……好きだぜ?」



耳元でそう囁いて。



『えっ!?……んっ』



驚いて顔を上げるであろうなまえの唇に先回りして…ソッと自分のそれを当てた。



「少しぐらいは強引になっても、いいんだろ?」

『なっ、な…っ!どこでそれを!』

「秘密」



夕焼けに染まる空よりも赤いなまえの頬へ、ひとつ…唇を落とした。







『…ずるい』

「ん?何がだ?」

『だって…私ばっかり一護先輩の事好きみたいなんだもん』

「……ばーか。言っとくけど…俺の方がお前の事好きだからな」

『へっ!?』

「口開けてっとまたするぞ?」

『…!先輩のばかっ』



これでお前の中の俺は…可愛いより格好いいになっただろ?







Stellaさまへ捧げます!
ヘタレな先輩一護…ご期待に添えましたでしょうか?

言葉遣いが変になってしまいましたが、よろしければお持ち帰りください!
では、これからもよろしくお願い致します^^



2012/03/27 加筆



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