捧げ物 | ナノ



さあさあと、雨が降る。毎年この季節になると、瀞霊廷では日の光を拝む事は出来なくなってしまう。

……雨は嫌い。
どことなく、悲しくなるから。そう言ったら普通に否定されたけど…

曇天の空を見上げてみた。顔に当たる雨の温度は心地良い。
ひとつぶ、またひとつぶと雨のつぶが私の身体を打ち付ける
。雨に身を委ねてどれくらい経ったかわからない。髪からは既に雫が滴って、身体は全身ずぶ濡れ。



『……阿近さん…』



ぽつり、呟いた言葉は雨の音に掻き消される。

隊の仕事が忙しくて、一番最近会ったのはこの季節に入る一月前。阿近さんから出向いてくれる事は滅多にないから、この忙しさが落ち着くまでは会えなくて。
だから…阿近さんが好きだと言った雨に当たれば、阿近さんを感じられると思った。



『…会いたいな』



今、何をしてるんだろう。少しでも、私のことを考えてくれてるかな…
ぐるぐると回る、そんな想いに目を瞑った。

雨が地を跳ねる音と、風の音だけが聞こえる。



『…!』



一部の雨が、止んだ気がした。
ふと伏せていた目を開いて、ゆっくりと後ろを振り返る。
久し振りに見たその姿に、何故か目尻が熱くなった。



『あ、こんさん…』



気だるそうに傘を差して、煙草を軽く口に銜える…思い描いていた人。



「…何やってんだ」



パシャ、と踏み出した足に水が鳴る。



『…雨に、当たってたんです』

「んな事ァわかってる」



またパシャリ、一歩一歩と私に近づくこの音は、どこか安心する。
私に当たる雨が、遮られた。



「馬鹿野郎…風邪引くだろーが」



呆れたようなそっけのない声色とは裏腹に、優しい雰囲気で小さな透明の傘に私の身体を収めてくれた。



『……阿近さんに、会いたくて…』

「…そいつがずぶ濡れになるのと関係あんのか?」



ったく、と白衣の袖で私の髪を乱暴に乾かす。



『だ、だって…!阿近さんが…』

「俺が?」



ボサボサになった私の髪を手櫛で整える阿近さんに、私は少しだけ俯いた。



『阿近さんが雨、好きだって言ったから…』



少しでも阿近さんを、感じたかったの。
不意に私の髪を梳く阿近さんの手が止まる。冷たくなった頬が熱い。それを隠すように顔を背けば、パシッと腕を取られた。



『え…』



反射的に顔を上げれば、短くなった煙草を手も使わずに吐き出す阿近さんが居て。ふわふわとスローモーションのように舞う煙草が目の端に映る。
ジュ…という短い音がどこかで聞こえたけど、阿近さんのその仕草が本当にかっこよくて。
口の中に煙草の苦味が広がっているのに気付いたのは、少し経った後だった。



『ん…』



まるで味わうように私の口の中を犯す。最後に少し唇を吸って離れるのが、阿近さんの癖。



「…なまえ」



一ヶ月振りに聞いた。阿近さんが私を呼ぶ声。



「…あんま可愛い事言うな」



我慢出来なくなるだろ。



『…!』



耳元で囁かれた言葉に胸がドキンと跳ねる。雨に濡れた寒さなんて、とうの昔に忘れていた。



「あー…俺までずぶ濡れになっちまった。…ま、いいか」



私にキスをした時に、どうやら傘を落としてしまったようで。雨に濡れた髪を掻き上げる阿近さんの姿に私の胸はパンク寸前。



「何俯いてんだ。……お、そろそろだな。なまえ、上見てみろ」



口元に柔らかな笑みを浮かべる阿近さんに首を傾げながらソッと空を見上げてみる。ぽつり、ひとつぶの雫が私の頬に落ちた。



『え…?……わぁ…!』



サァアア…と雲が一斉に散って。その隙間からは光が零れる。眩しさに堪えきれず目を瞑ってしまったけど、もう一度ゆっくりと目を開けた。



『……きれい…』



空の遥か遠く、色とりどりの虹が弧を描いて浮かんでいて。



「…俺は雨、好きじゃねえよ」

『え?』



いつの間にか煙草を取り出して煙を吐き出す阿近さんが声を静かにそう言った。



「だが…雨の後にこんな絶景が拝めるんだ。…嫌いにはなれねえだろうよ」



だろ?と、口角を上げてニヤリと笑う。



『……はい、そうですね…』



雨はやっぱり苦手だけど、少しだけ…好きになれそうな気がした。







「…さて、と。なまえ、行くぞ」

『え……え?』



目の前に広がる絶景に目を細めていれば、強い力で腕を引かれる。



『い、行くって、どこにですか?』

「俺の部屋。一ヶ月もお預け喰らったんだ…暫くは付き合って貰うからな」



さも当たり前だろうとでも言うような顔。



『な、な、な…昼間から何言ってるんですか!それに私、まだ仕事が』

「阿散井から休み貰った。暫くは休んでいいだとよ。これで問題ねぇだろ?」

『……』



…阿近さん、阿散井副隊長脅しましたね。



『離してくださいー!雨に濡れて寒いんです!お風呂』

「騒ぐな。どうせすぐ暖まる」

『……』



あれやこれやと言葉を並べる阿近さんに、私は結局言い返す事が出来ないまま阿近さんの部屋まで連行されたのだった。



『…て言うか阿近さん』

「何だ?」

『何で虹が出るってわかったんですか?』

「…………調べたから」

『え、まさかそれ調べる為に一月閉じ籠もってたんですか?』

「……」(図星)

『…阿近さんて意外と可愛いですよね』

「……何だなまえ。もうワンラウンドしたいなら最初から言えばいいじゃねぇか」

『え、ちょ…うそ…っ』



なまえの笑顔が見たかったからという理由でモニターとにらめっこしていた阿近さん。内心虹より達成感の方が大きかったらしい。







ななさまからのリクエストでした!
お相手阿近さんで、梅雨の雨で切ないけど虹が出て甘!…になったでしょうか!
なんて言うか…虹があまり生かされてないですね…orz

勿論書き直し受け付けますので!
では、リクエストありがとうございました!



2011/06/07
2012/03/24 加筆



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