『あ、あこ、あこんさあああんっ』
「………は?」
研究室にそぐわない子供特有の泣き声が響き渡った。
えぐえぐと泣く私の目の前では、珍しく焦っている阿近さんがどうした、と聞いてくる。
『ひよっ、ひよすさんにまんじゅやるっていわれて、たべたら、ちっ、ちっちゃくなって、たっ』
つい数十分前、鵯州さんのところへ遊びに行ったら珍しくお饅頭を恵んでくれて。ありがとうございまーすなんて言いながら口に入れたら途端に苦しくなって、死ぬのかなとか思ってたら視線がかなり低いところにあった。…私は子供になっていたのだ。
「……鵯州の奴」
盛大に眉間に皺を寄せた阿近さんを下から見上げると、あきらかにいつもより怖い。すごい怖い。
まず何で自分がこんな事になってるのかわからないし、戻れるのかもわからないこの状況で、不安から私は咄嗟に阿近さんの白衣を掴んだ。
「……」
『…あ、ごめん、なさい…』
「……いや」
見下ろされる視線すら怖くて、パッと手を離す。…どうした私、いつもの自分じゃないんだけど。
性格すら変わったのか、と俯いて考えていると、泣いているかと思ったのか阿近さんが視線を合わすように屈んだ。
「…大丈夫か?鵯州にすぐ戻してやるよう脅してきてやるから、ちょっと待ってろ」
『(脅し…)』
物騒にそう言って私の頭をぽんぽんと撫でると、阿近さんは立ち上がってドアの方へと歩いていく。…え、私一人?
『やっ、あこんさん、まって!』
すたたた!とすぐさま阿近さんの元に走りよって、はし!と足に縋りつく。そんな私の行動に驚いたのか、阿近さんは「うおっ!」と叫んで私を見下ろした。
『いっちゃ、や…っ』
「……」
『ふえ、え…あこんさん、いて…っ』
心細くて、寂しいよ。慣れない視界に何もかもが大きく見える世界。ましてやそういうものが置いてある此処で、一人は怖かった。いつもの私なら、そんな事はないのに。
『う…』
「……なまえ、」
『…う?』
「来い」
足を床に付いて、阿近さんは腕を広げながらそう言った。言っている意味がわからなくて、こてんと首を傾げると、阿近さんは苦笑して私を抱き上げた。
『ふおおお!』
「ふおおってなんだよ」
『あこんさん、あこんさんが、だっこ…』
「お前が行くなっつったんだろ?」
寂しいなら側に居てやるから。と、私を横目に阿近さんは柔らかく笑う。ちょっと鼻血出そうだったから鼻押さえたら、なまえ?と心配そうに名前を呼ばれた。
「鵯州には後で言っといてやる。お前は何も心配すんな」
『はい…』
「クッ…お前、ガキん時こんなに大人しかったのか?」
可愛いじゃねえか。そう笑って私の頭をよしよしと撫でる阿近さんが素晴らしくかっこよかったので、このままで居たいと思った。でも阿近さんの膝に乗って談笑してる間に戻った時は、沈黙の重さに堪えきれずある意味泣きそうになった。
とりあえず、鵯州さんをボコりに行こうと思います。
阿近さんと「幼女」
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