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「名前って、秀才だよね」



ある日唐突に放たれた言葉は、私に闘争心を抱かせた。



『…むかつく』



視線の先には黙々と作業をしている鬼。

技局に入ろうと死ぬ思いで勉強して、10年に一人の逸材とかちやほやもてはやされたけど、確かに天才なんて欠片も思ってないけどさ。



「強いて言うなら天才は阿近さんじゃない?」



そう笑顔で言った友人に私の小さなプライドは跳ね上がるように壁となったのだ。



(確かに阿近さんは天才だよ。でもさ…)



…なんかむかつく。
それは単に負けたからとか、単純な理由じゃなくて。



『わかんないなぁ』

「何がだ?」

『や、何で阿近さんがむかつくのかって……ん?』

「…ほう?」



…わお。どこからかイケメンでダンディーな声が聞こえたかと思ったら阿近さんじゃまいか。



「見え見えの世辞に乗るとでも思ってんのか」

『やだ阿近さんたら。お世辞なんかじゃナイデスヨ』

「……」



ギロリと無言で睨み付けられた。…こわい。鬼め。



「…で、俺の何がムカつくんだ?」

『別にむかつく訳じゃないですよ。…ただ、阿近さんは天才だなって』

「天才…ねぇ」



にやにやと笑いながら私を見るこの男。
……何この人。むかつく。…むかつく。



「別に俺は天才じゃねぇさ」

『へ?』

「…ま、天才はもっと他に居るってやつだよ」



ふと少しだけ寂しそうに笑う阿近さんに、何故だか胸が痛んだ。
…ごめん阿近さん。むかつく撤回。



「…で、秀才と名高い名前サンの言い分は?」

『……はい?』



言い分?何それ。

途端ににやつく阿近さんがクイッと私の顎を掴む。
至近距離に阿近さんの(無駄に)整った顔が。

…何でドキドキしてるんだ私。



「おーおー、顔真っ赤だな」

『赤くないです離してください』

「ふーん?」



楽しそうに私の反応を見ながらずいと顔を近づけてくる。
…ちょ、お願いだからやめて。何か出る。



「好きだ」

『……は』

「好きだっつったんだよ」

『……』



…はて、目の前に居る人は今なんて言った?
好き…好き?



『唐突過ぎてわかんない…』



告白する雰囲気も何もなかったよね。
…ああ、この人に普通を求めても駄目なのか。



「秀才のお前なら、俺が何しようとするかわかるだろ?」



色気の混じった表情でそう告げる阿近さん。
ああ駄目だ。私はやっぱり秀才なんかじゃない。
だって、身体が熱くて何も考えられないんだもの。



『…わからないですよ』



だから、教えて?

にこりとはにかんだ私に、阿近さんの冷たい唇が降ってきた。



解けたのは、



あなたと私の方程式。



(…まーあれだな、俺の方が一枚上手だったって事か)
(…はい?何言ってんですか、第一阿近さん自分で天才じゃないって言ってたし)
(お前よりは天才だ)
(…かっちーん。意地悪な阿近さんなんて、嫌いです)
(…ほう?そんな口利く唇は塞がなきゃなァ)
(は、え、ちょ…!)







塞がれたいです。切実に←



2011/12/17
2011/12/25 加筆