手を組んで冷たい床に跪きながら、ソッと天を見上げる。
『…主よ、どうか今日もこの身をお守りください』
悪の蔓延るこの世から、世界をお守りください。
『神様…』
ほぅ、と呟く声は小さな教会に反響する。
しゃらんと鳴る十字架を握り締めて振り返ろうとした瞬間、待っていましたというように肩を掴まれた。
『きゃ、あ…っ』
トンと壁に押しつけられて、顎にざらりとした感触。
「ごきげんよう、名前さん」
ニタリと笑みを浮かべる悪魔が、私を見下ろしていた。
『…っ、あく、ま…!』
「おやおや、私の名前は悪魔などでは無いと言ったのですがねぇ…」
まあ私は悪魔ですが。と後ろにマークが付きそうな勢いで囁かれる。……ぞわってしたんだけど。
『…離して頂けますでしょうか悪魔さん』
「嫌です」
『ざけんなてめぇ離せ』
「…ワオ、ぶっちゃけましたね」
ひくりと引き攣った表情にふんと鼻を鳴らすと、くつくつと楽しそうに笑う声。
「やはり貴女はそのままでいい。…居もしない神に慈悲を乞うなど、やめたら如何です」
『…何であんたにそんな事言われなきゃいけないのよ』
第一、そんなの私が一番よく知ってるんだから。
…神様が居たら、私からすべてを奪う筈がないもの。
『生憎私は聖職者。こんな狭いおんぼろ教会でも私が願わなきゃ意味がないの』
「…ほう?」
『だからあんたも、いい加減諦め……てっ!?』
ぐいっと近づいた顔に、声が上擦る。
押し返そうと胸を掴んだら、急に身体が宙に浮いて背中にひんやりと固いモノ。
「諦めろ…だと?」
『ちょ、あんた何押し倒して…!』
低くなった声に身体が震える。それは単に床に押し倒されたからじゃない。
「…今此処でお前を犯したら、一体どうなるのだろうな」
『な…っ』
「クク…穢れの知らない身体はさぞかし甘美なのでしょうねぇ」
『ひゃ…!』
ねとりと首筋を舐められる。
感じた事のない気持ち悪さに、自然と涙が浮かんだ。
「…ああ、そそりますねぇその表情。悪魔を煽るのは得意ですか?」
『……っ』
…嫌だ。嫌だ。怖い。気持ち悪い。何で、私がこんな目に…
『ふぇ…』
「…え?」
『ぅ…うぁあああん!わぁあああんっ』
「は?え、ちょっと名前さブングルッ!?」
ボカッという鈍い音がしたけど気にせず泣き喚く私に、壁にめり込む悪魔。
『あっ、あんたなんかっ大ッ嫌いなんだからあああ!!』
「……!」
ふぇえん!!と舐められた首を押さえる私に、ビクリとめり込む身体が動いたのはきっといや絶対気のせいだ。
ああ、私の主よ!
どうかこの悪魔をぶっ殺してくださいませ!
(ひっく…ひっく)
(あああ名前さん泣かないでください…!)
(うっさい黙れ死ねバカアホ)
(…グサグサグサッ)
(大ッ嫌いっ)(…ちゅどーん!)
((……もしかしてこいつ私が好きとかじゃないよね))
聖職者と悪魔っておいしいモグモグ
2011/12/10
2011/12/25 加筆