言葉にするのって、結構大事だと思う。
…だけど、言葉がいらなくても伝わる事だってある。
「……ん、」
『え?』
帰ろうと振り返った勝呂くんが、私に向かって手を差し伸べる。
そっぽを向いた頬がほんのり赤く染まっているのに、クスリと笑みが溢れた。
『…勝呂くんの手、あったかいね』
一回りも大きな手のひらに自分のそれを重ねて握り締める。
自分のではない違った体温に、頬が緩んだ。
「…そぉか?」
『うん。…私、勝呂くんの手好きだなあ』
男の人、って感じがするごつごつして骨張った手。大きくてあったかくて、ずっと繋いでいたくなる。
「…手ェ、だけか?」
『え…』
ちょっと拗ねたような声色に顔を上げると、唇をツンと突き出して目の前の夕焼けを睨み付ける勝呂くんがそこに居た。
『…ふふっ』
その姿がどうしようもなく可愛くて、つい笑みを浮かべると、勝呂くんはカァッと顔を赤らめて声を荒げる。
それが照れ隠しなんだとわかったのは最近の事だけれど。
『勝呂くんなら、何だって大好きだよ』
「……ほお、か」
そう言って、ぷいと顔を背けてすたすたと歩き出す。
…だけど、繋がれた手が離れないのは、「俺も」だっていうしるし。
『…好きだよ』
答えを求めないのは、私に言葉はいらないから。
だって彼が私をどう思ってるか、なんて、愚問なんだもの。
握り締める手のひらに汗ばんだ熱が籠る。
それに頬を緩ませながら、私は今日も彼の手を握り返すのだ。
伝わる温もりに
自分の鼓動を合わせて。
(勝呂くんの顔真っ赤だね)
(ゆ、夕日の所為やろ)
(日、暮れかけてるのに?)
(………)
(ほんとに勝呂くんて、可愛いよね)
(かわ…!?そっ、そんな訳ないやろ!名前の、方が…かいらしい、し…)
((…つんでれだなあ))
…坊喋ってないじゃまいか。
2012/01/06