…ああ、何で。君は僕を見てくれない。
「……何でなんやろ」
ぽつり、呟いた言葉が行き着く先は一体どこなのか。
ひとつの背中を眺める彼女の横顔を、俺は見つめている。
『――…』
小さな唇が動いて名前を紡いだ。
憎らしくて、憎めないその名前を。
「…名前ちゃん」
作り慣れた笑顔を浮かべて近寄れば、ふと寂しそうな横顔は引き攣ったように笑顔に変わる。
…ああ、忌々しい。無理に作った笑顔を作らせる、あいつが。
『なあに?志摩くん』
俺は君の本当の笑顔が見たいのに。
視線の先に居る青が、それをさせない。
「…そんな顔してまで、奥村くんがええの?」
『……え?』
「ほんまは見る事すら辛いクセに、何で…」
何で、奥村くんなんや。
じわじわと黒い何かに支配されていく自身。
目の前で仲睦まじく笑い合う二人の男女と、相容れない俺の気持ち。
ああ…苛々する。
「……俺にしとき。俺なら、名前ちゃんにこない寂しそうな顔させへん」
『…志摩、くん』
柔らかい身体を抱き締めて、ソッと頭に口づける。
肩を濡らす冷たい何かと、鼻を啜る声にドクンと胸が跳ねた。
「(ああもう、ほんま阿呆やな…俺)」
きっと彼女は付け込んだ自分の気持ちに答えてはくれないだろう。…けど、
「(それでもええ…なんて)」
…彼女の笑顔が見られるなら、こんな想い、
「(捨てたるわ)」
抱き寄せる腕は、
泣きそうな程に、震えていた。
切ない志摩の恋が好き。何でだろう。
2012/01/18