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※パロディ注意。
一護が執事。





お嬢様なんて、いいものじゃない。
だってすべてを言う通りにしなきゃいけないんだもの。
…私は、お人形なんかじゃないのに。



「名前様?」



覗き込むように私の顔を伺う一護。その言動にチクリと胸が痛んだ。



『……様、いらないって言ってるのに』

「…しょうがねぇだろ?誰か居るかもしれねーんだから」

『……』



む、と唇を尖らせる私に、一護は苦笑しながらドアの鍵を掛けた。



「ふてくされんなって」

『……別に』



ベッドの端に座ってそのまま背中を倒す。ふわりとした心地よさにふうと息を吐いた。



「…名前?何かあったのか?」



…一護の鋭さは時々嫌になる。
恋人だからなのか、私の事なんてすぐにわかってしまうから。



『…今日、お父様にお見合い相手の写真見せられたの』

「お見合い…?」

『結婚しろ、だって』



それは私の為なんかじゃなくて、家の為に。所詮女で生まれた私には、道具として扱われるだけなのよ。


「……」

『…ねえ一護、私を連れ去ってよ』



一緒に逃げよう?

トン、とベッドから起き上がって目の前の身体を抱き締める。
震える腕に、自嘲的な笑みが浮かんだ。



「名前…」



ソッと顎を上げられて口づけられる。優しく儚いそれに、心がざわめく。



「…お見合い、してこいよ」

『、え?今…なん、て』



告げられた言葉は、とても残酷なものだった。



「俺みたいな奴より、そいつの方がお前の事幸せにしてくれるだろ。…それに、所詮お嬢様と執事。俺たちは最初っから釣り合わなかったんだ」

『……!』



な?と笑顔を浮かべる一護。さっきまで合わせていた唇は、既に熱は帯びていなかった。



『…一護の、ばか』

「名前?」

『一護なら、わかってくれると思ったのに。気持ちが同じだって思ってたのは、私だけだったの…?』



親の言いなりになるしかなかった私に、そうじゃないと教えてくれたのはあなたじゃない。



『…好き、だったのよ』



大好きだったのに。
あなたは欠片すら残してくれない。



『大嫌い…!』

「…っ、名前!」


伸ばそうとする腕を払って、私はそのまま部屋を飛び出した。
滴る涙に、想いを寄せて。







『……』



着付けをして貰ったのは数時間前。
私の目の前には笑みを溢す青年と、上辺だけの両親。

一護と別れた後、私は父に申し出て一護を解雇して貰った。それから一護とは会っていない。

今日はお見合い当日。お見合いなんて言葉だけで、婚約するという事は決定らしい。



「名前さん?」

『あ…ごめんなさい。少しぼうっとしてました』



大きな屋敷を二人で歩く。名前も、何も知らない人と。



「…僕は運がいいみたいだ。名前さんのような女性と婚約出来るんですから」



にこり、優しく笑むこの人の言葉が嘘なんて、とうにわかっている。
両親と同じ目、笑み。どうせ家柄だけなんて、この人も同じなんだから。



「…名前さん」



ふと耳元で聞こえた声にぞわりと背筋が凍る。
肩を抱かれて腰に腕が回って……気持ち、悪い。



『や…っ、やめて!』


…嫌だ。嫌なのに。
膜が張る瞳にオレンジの残像。…ああいやだ。幻なんて、見たくない。



『一護…っ』



「やっと、俺の名前呼んだな」

『……え…?』



優しい声色は、とても懐かしいものに聞こえた。
目の前に広がる、広い胸。サラサラと光る、オレンジの髪。



『い、ち…ご』

「な、何だお前!名前さんを離せ!」



地面に膝を付く男が声を荒げる。
グッと私を抱く腕に力が入ったかと思えば、青筋を浮かべた一護がその顔を思い切り殴った。



「ガッ…」

「…離せ、だと?ふざけんな。こいつは俺の女なんだよ。てめぇみてえな男が、触れていい女じゃねえんだ」

『…!』



トクンと音を立てる心臓。
どうしようもなく嬉しくて、愛しくて、私は一護の服を力いっぱい握り締めた。



「名前?大丈夫か?」

『…ばか、遅いんだから』

「遅いっつったってな…お前が勝手に解雇すっからだろ!屋敷立ち入り禁止にされたんだぞ!?」



……そう言えばそうだったかも。



『て言うか、一護が悪いんじゃない!つ、釣り合わないとか、言うから…っ』

「あああ泣くなって!俺が悪かったから!…つか、まあ元々辞める気だったからいいけどよ」

『え…?』



不意に顔を上げると、照れながら頭を掻く一護が居て。



「普通の男なら、堂々としてられるだろ?」



ふとはにかむこの人に、私は顔を染め上げるしか出来ない。



『…一護の、ばか』

「おう。じゃ、話が纏まった所で…」

『え?』



突然地面に跪き出す一護の言動に首を傾げると、後ろから何やら騒ぎ声が。



「このままでは捕まってしまいます。お嬢様のお望みとあらば…貴女様のご命令通りに」



そう言ってにやりと色っぽく私の甲へと口づける。
トクリと鼓動する心臓に、嬉しさにも似た何かが込み上げる。

…ああもう、ほんと…一護らしいんだから。



『…私を此処から、連れ去って』

「……承知致しました、お嬢様」



クイッと腕を引かれて屋敷を駆け抜ける。
聞こえてくる怒号に笑みを漏らしながら、私は愛しい人の背中を追い続けた。



この手はもう二度と、



離さない。


(…って、広すぎるだろ此処!)
(ちょっと一護!早く連れ去りなさいよ!かっこつけたクセに!)
(う、うるせえ!それを言うなっ)
(照れるくらいなら走る!)
(照れてねえ!)







ひかりさまからのお題、執事一護でした!
ひかりさまたいっへんお待たせしました…!すみませんしか言えないです…orz

ご期待に添えたかわかりませんが、書いていてとても楽しかったです(^^)

お題提供ありがとうございました!



2012/02/06