37
徐々に騒がしくなる教室の中で一人、窓の外を見やるわたしの時間は一人だけ止まっているかのように穏やかだった。
「…なまえ?」
ふと名前を呼ばれて振り返ると、目を丸くさせた仁王くんと目が合う。
『あ、仁王くんおはよう』
「お、おお。おはようさん」
『どうかしたの?』
こてん、と首を傾げると、仁王くんは顎に手を当ててわたしを見つめてくる。
「いや…お前さん、なんか変わったか?」
『特には…え、何で?』
「一瞬大人っぽく見えた気がしたんじゃよ」
気のせいか。と頭を掻く仁王くんに小さく笑う。大人っぽく…か。ちょっと嬉しいな。
「心境の変化かのう」
『そうかもしれないなあ』
「…決着、ついたんか?」
細くなった目がわたしを映す。首を横に振ると、仁王くんは「ほーか」なんて言いながら頭を撫でた。
『…あのね、仁王くん』
「ん?」
『わたし、もう一回告白するの』
「……うん」
『頑張って、伝えてみるよ』
朝はあんなに騒がしかった胸のざわめきも、今は怖い程落ち着いてる。
そう笑顔を浮かべて見上げると、仁王くんは一瞬だけ目を見開いて優しく笑った。
「お前さんなら、大丈夫じゃよ」
あの時と同じようにそう笑って、わたしの髪をするりと撫でる彼の優しさに、少しだけ涙が出そうになった。