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いつもより一時間も早く起きた朝は、とても心地よかった。ひとつだけ違っていたのは、胸の高鳴りが時間が経つにつれて大きな音を立てていること。
運動部の声が聞こえる中に混じる、一定のリズム。時折聞こえてくる声はきっと真田くんのものだ。
現在7時30分。あの日と同じ時間、同じ場所に今わたしは立っている。
『…よし、』
大きく息を吸って、吐く。そして目当ての靴箱へ、手に持つ手紙をソッと、置いた。数えなくてもわかる、その場所に。間違いなんかじゃない本当の気持ちを重ねた。
『…れんじくん』
誰も居ない靴箱の前で名前を呼ぶ。愛しくて仕方のなかった人の名前を。
『すきだよ』
小さく、呟いてわたしは駆け出した。色づいてあるだろう頬に、手を添えながら。彼だけを考えて。