Lover's Letter | ナノ




33



中庭のベンチに座ってたどたどしく話し出すわたしに、真田くんは真剣に話を聞いてくれた。話し終わった後、ありがとうと言いながら微笑んだ真田くんにわたしはただ謝った。



「謝るな、お前の所為ではない。誰も、悪くなどない」

『……っ、』

「…ただ、少し残念だな」

『、え…?』



恐る恐る顔を上げると、寂しそうに微笑む真田くんと目が合った。



「元々は玉砕覚悟の告白だった。返事を貰うつもりも、聞くつもりもなかった。…伝えたかっただけ、というのは便利なものだな」

『真田、く…』



「…みょうじは、蓮二の事が好きなのだろう?」



探るように、それでいて確信を持って紡がれた言葉に、わたしは膝の上に置いてあった手を握り締めた。そして小さく、こくりと頷いた。



「俺は、お前が幸せならばそれでいい」

『…真田くん』

「だが、出来る事ならその隣に在るのが俺であればいいと、思っていた」

『……っ、』

「…女々しい男だ。すまないな、困らせるつもりはなかったんだが」

『…うう、ん。真田くん』

「何だ?」



俯きがちになっていた顔を上げて、真田くんを見つめる。視界が歪んでくるのも無視して、わたしは笑った。



『わたしを好きになってくれて、ありがとう。…わたしも、』



わたしも、大好きだったよ。

目を見開く真田くんが目に映る。我慢出来ずにぽろりと溢れた気持ちを掬って、彼も笑った。



「ああ、俺もだ」



胸の痛みは、もうない。手のひらの中にあった皺くちゃな封筒を出して、真田くんに見合う。



『良かったら、受け取ってください』



真田くんの事だけを考えて、書いた手紙。今のわたしには、必要ない。蓮二くんに言われた通り、本当に渡したい人へ、伝える。



「無論だ」



ありがとう。そう笑って真田くんは優しく受け取ってくれた。また泣きそうになるわたしに、泣き付く相手が違うだろう?って悟ってくれる彼が、わたしは好きだった。



「お前なら、大丈夫だ」



そう言ってわたしの背中を押してくれる彼が好きだった。
でも、それ以上に心に居るのは、あの人。



『…ありがとう、真田くん』



わたしは振り返らずに、駆け出した。
一年前から抱いていた恋心に終止符を打って、傷を負っている彼の元に。


 


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