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中庭のベンチに座ってたどたどしく話し出すわたしに、真田くんは真剣に話を聞いてくれた。話し終わった後、ありがとうと言いながら微笑んだ真田くんにわたしはただ謝った。
「謝るな、お前の所為ではない。誰も、悪くなどない」
『……っ、』
「…ただ、少し残念だな」
『、え…?』
恐る恐る顔を上げると、寂しそうに微笑む真田くんと目が合った。
「元々は玉砕覚悟の告白だった。返事を貰うつもりも、聞くつもりもなかった。…伝えたかっただけ、というのは便利なものだな」
『真田、く…』
「…みょうじは、蓮二の事が好きなのだろう?」
探るように、それでいて確信を持って紡がれた言葉に、わたしは膝の上に置いてあった手を握り締めた。そして小さく、こくりと頷いた。
「俺は、お前が幸せならばそれでいい」
『…真田くん』
「だが、出来る事ならその隣に在るのが俺であればいいと、思っていた」
『……っ、』
「…女々しい男だ。すまないな、困らせるつもりはなかったんだが」
『…うう、ん。真田くん』
「何だ?」
俯きがちになっていた顔を上げて、真田くんを見つめる。視界が歪んでくるのも無視して、わたしは笑った。
『わたしを好きになってくれて、ありがとう。…わたしも、』
わたしも、大好きだったよ。
目を見開く真田くんが目に映る。我慢出来ずにぽろりと溢れた気持ちを掬って、彼も笑った。
「ああ、俺もだ」
胸の痛みは、もうない。手のひらの中にあった皺くちゃな封筒を出して、真田くんに見合う。
『良かったら、受け取ってください』
真田くんの事だけを考えて、書いた手紙。今のわたしには、必要ない。蓮二くんに言われた通り、本当に渡したい人へ、伝える。
「無論だ」
ありがとう。そう笑って真田くんは優しく受け取ってくれた。また泣きそうになるわたしに、泣き付く相手が違うだろう?って悟ってくれる彼が、わたしは好きだった。
「お前なら、大丈夫だ」
そう言ってわたしの背中を押してくれる彼が好きだった。
でも、それ以上に心に居るのは、あの人。
『…ありがとう、真田くん』
わたしは振り返らずに、駆け出した。
一年前から抱いていた恋心に終止符を打って、傷を負っている彼の元に。