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軽い軽食を済ませて今日のテストを復習していると、外から走り込みをしているであろう生徒の声が聞こえてくる。
『…あれ、そう言えば今日から部活だったっけ』
でも蓮二くんはそんな事言ってなかったから、テニス部はないだろうし。あ、バスケ部は今月中に大会だったって聞いたな。
そんな事を考えながら確認は終わり、用具を鞄の中へと仕舞うと、本格的に暇になってきた。仕方ない、そう思って財布を片手に自販機まで行こうと扉に手を伸ばした瞬間、ガラリと音を立てて扉が開いた。
『きゃ…っ』
「む、す、すまん!大丈夫か!」
よろけたわたしの身体を太い腕が支えてくれる。お礼を言いつつ顔を上げると、そこには見知った顔があった。
『さ、真田く…』
「すまなかったな。まさかみょうじが居たとは…」
『ううん。それより誰かに用だった?結構時間経っちゃってるからわたししか残ってないけど』
「…いや、」
視線を泳がせる真田くんに首を傾げながら、とりあえず中入る?と促して背を向けると、強い力で腕を引かれた。
『えっ?』
「…みょうじに、用があったのだ」
『わたし、に?』
ああ、と重苦しく頷いた真田くんはわたしの腕を離す事なく口を開く。
「その、何だ。最近、あまり会わないな」
『そう…だね。クラスも違うから…』
「仁王とは、相変わらずか」
『うん。仲良くしてるよ』
「そう…か」
『…真田くん?』
どうしたの?と顔を覗き込むと、真田くんは顔を赤くしてフイッとそっぽを向いてしまった。
「…図書室で」
『え?』
「お前と蓮二が二人で居たのを見た時」
『あ…』
「目に入った瞬間、どうしようもなく居た堪れなくなった」
ぽつりぽつりと話し出す真田くんの手が、時折わたしの腕に力を入れる。汗ばむ手のひらから、熱が込み上げる。
「仁王とは違う苛立ちが、その日から俺を苦しめるのだ」
『さ、さな…』
「…本当は、今更などではない」
『、え…』
「一年前のあの時から、俺はお前が好きだった」
『――…』
前を見据えて、意志の強い真っ直ぐな視線がわたしを射抜く。まるで死刑を宣告されたみたいに、わたしの身体は動く事を知らなかった。
ただひとつだけわかるのは、視界の端に一人佇む蓮二くんが、目を見開いていた事だけ。